主な材料は水あめだけ。「付加価値のほとんどは、指先でつけています」。向かう職場は毎回違う。客層も、子どもからお年寄りまでと様々だ。大きなワゴン車に屋台の道具を載せて、呼ばれればどこへでも行く。「何が一番の魅力ですか?」という質問に、あめ細工師の水木貴広さん(40歳)はこう答えた。

「どうすれば上達できるのか、わからないところじゃないですかね」

和ハサミだけで次々動物が…
ほんの数分間が勝負

水木さんが作るあめ細工。レパートリーは約200種類に上るが、人気があってよく作るのは約30種類。子どもが喜ぶ動物やキャラクターものが多い。

 最初に水木さんのあめ細工を見たのは7月だ。地域住民を対象にした七夕祭りの日だった。あいにくの雨にもかかわらず、午前中からたくさんの子どもたちが地区の公共施設に集まってきていた。

 午前10時。ハッピに鉢巻き姿の水木さんが、「あめ細工」ののれんを掲げた屋台に立つと、整理券を手にした子どもたちがその周りをとり囲んだ。多くは小学生である。

「何にする?」

 番号順に、水木さんが子どもたちに聞く。

「クマ!」「私、白いリス!」「ウサギ!」など、子どもたちが作ってほしい動物を順番にリクエストする。

 リクエストを受けると、水木さんは道具箱の蓋を開け、あらかじめ仕込んであったあめをひとつかみした。箱の上には、2本の和ハサミ。引き出しからは、小さな筆と食紅などが入った皿がのぞいていた。

 つかんだあめを円盤状にした後、水木さんは左手にそれを載せ、右手で筆の先に色をつけて、ちょこん、ちょこんと円盤の上に置いた。それを両手で引き伸ばすようにして練り込んでいくと、白かった飴がみるみる色づいた。

 色づいたあめを両手で丸め、割り箸に刺す。すべての細工は、ここから始まる。

 精巧なパーツを作り、ランプの熱で溶かしながらそれらをくっつけていく西洋のあめ細工とは違い、日本のあめ細工はスピードが命だ。あめは時間が経つほどに冷たく、固くなっていく。細工ができるのは、ほんの数分間しかない。その数分間で、見ているものをどれだけあっと言わせられるか、が勝負である。

 子どもたちが、息を殺して水木さんの手元を見つめていた。その視線を感じながら、割り箸の先端に刺したあめの一部を、水木さんがぐいっと指で伸ばす。伸ばしたかと思えば、パチ、パチ、パチと心地よい音を響かせながら、ハサミで細かな切り込みを入れた。あっという間に、それが動物の頭や手、脚になっていく。

 あめを引き延ばしながら割り箸にからめ、龍の形が出来上がった時だった。

「うわぁ……」

 それまで黙って見ていた子どもたちの間から、感嘆の声が漏れた。ただの丸いあめが命を吹き込まれたように次々と形を変えていくのが、おもしろかった。