日の出湯の場合、規模が小さいため、多くても1日150人がせいぜいだという。だが、都内には1日500人もの客が来る銭湯もある。浅草界隈では、外国人観光客にも銭湯は人気だ。

 それでも、一時は都内だけで3000軒近くあった銭湯が、2010年(平成22年)の時点で約800軒(東京都浴場組合ホームページより)。最近は1週間に1軒のペースで廃業が相次いでいる、とも聞く。業界的には、東京オリンピック以降、ずっと右肩下がりである。

「冷静に見て、今後も拡大していくビジネスだとは考えにくい。だから、オレがこの業界を立て直してやるぜ、とか強い意気込みでやっている訳じゃあないんです」

「え、違うの?」

「だけど、残してはいきたい。おじいちゃんに『銭湯をやる』って言った手前もありますし、あるかなしかって言ったら、銭湯があった方がやっぱり、社会にとってはいいような気がしますから」

じつは防災拠点でもあった
知られざる銭湯の役割

 もちろん、問題はどうやって残すか、だ。

「うーん、そこなんですよね。まあ、僕の理想は、空いていてもやっていける銭湯なんですけれども……」

「空いていてもやっていける銭湯?」

「はい。個人的に、混んでいるお風呂って好きじゃないんですよ。だから、混んでくると、むしろ不安になります。日の出湯、最近、混んでいるから行くのやめようって思われそうじゃないですか?」

 忘れていた。彼は根っからの混雑嫌いなのだ。

 ところで、歴史を遡れば、江戸の庶民が銭湯を利用するようになったのは火事を恐れてと、井戸が少なかったために水に不自由していたから、だそう。

 東京に数多くの銭湯が建つようになった1つのきっかけは、大正12年に起きた関東大震災だ。平時はほとんど意識することのない銭湯も、有事には防災拠点の1つになる。古くから営業を続ける銭湯にはたいてい井戸があり、枯れていなければ、いざという時にはこの地下水が役に立つのだ。