疲れが抜けない。集中できない。やるべきことはあるのに、思うように動けない――。「もっと体力があれば」と思いながらも、「結局、生まれつきだから」と諦めていないだろうか。だが実は、「体力がない」と感じる人ほど、無意識のうちに「体力を削る習慣」を積み重ねていることがある。しかも、その多くは気合いや根性ではなく、日々の過ごし方を少し変えるだけで改善できる。1万人以上の患者を診てきた医師が、医学的根拠に基づいて執筆した『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から、一部を抜粋・編集しそのヒントを紹介する。

「体力がない」は勘違いだった? 6時間睡眠の習慣がもたらす悪影響Photo: Adobe Stock

6時間睡眠でも、仕事の質は下がっている

 睡眠の乱れは、自覚しにくい形で仕事の質を蝕んでいく。

 たとえば、6時間前後の睡眠が数日続くだけでも、反応速度の低下やうっかりミスの増加といった客観的なパフォーマンス低下が起こりやすい。一方で、眠気の自覚は2~3日で頭打ちになりやすく、実際には調子が落ちていてもまだ大丈夫だと錯覚してしまうことがある(*1)。

 実際の仕事でも、睡眠不足はまず些細なほころびとして現れ始める。注意力や感情のコントロールが乱れ、ケアレスミスが増え、判断も遅れる。そうした小さな変化が積み重なっていく(*2・3)。

 管理職を対象とした調査では、上司の睡眠の質が悪かった翌日には、部下への指導が通常より攻撃的になりやすいことも報告されている(*4)。

 こうした影響は、個人の問題にとどまらない。医療現場では、24時間を超える当直勤務で重大な医療ミスが増えやすいことが示されており(*5)、当直明けの通勤時には、事故のリスクが通常勤務日に比べて約16%高まるという報告もある(*6)。

 睡眠不足は、集中力や感情の安定といった内面的な働きだけでなく、行動の正確さや安全性といった外に表れる面にも影響を及ぼす

日中の活動量も、仕事の先延ばしも改善できる

 一方で、睡眠を整える取り組みそのものが、生産性の改善につながることも示唆されている。職場で睡眠教育やモバイル機器を用いた支援プログラムを導入した事例では、睡眠の質と仕事の生産性が同時に向上したことが報告されている(*7)。

 また、デジタル版の不眠治療プログラムによって不眠症状が改善すると、日中の活動量や仕事のパフォーマンスも高まることを示した研究もある(*8)。よく眠れた夜の翌日には、仕事を先延ばししにくい傾向も報告されている(*9)。

 つまり睡眠は単なる休息ではない。翌日使える体力を守り、働く時間の質そのものを底上げする基盤である。

(本稿は『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から一部抜粋・編集したものです。)

注釈
1. Van Dongen HPA, Maislin G, Mullington JM, Dinges DF. The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep. 2003 Mar 15;26(2):117-26.
2. Lowe CJ, Safati A, Hall PA. The neurocognitive consequences of sleep restriction: a meta-analytic review. Neurosci Biobehav Rev. 2017 Sep;80:586-604.
3. Lim J, Dinges DF. A meta-analysis of the impact of short-term sleep deprivation on cognitive variables. Psychol Bull. 2010 May;136(3):375-89.
4. Barnes CM, Lucianetti L, Bhave DP, Christian MS. “You wouldn’t like me when I’m sleepy”: leaders’ sleep, daily abusive supervision, and work unit engagement. Acad Manage J. 2015 Oct;58(5):1419-37.
5. Landrigan CP, Rothschild JM, Cronin JW, Kaushal R, Burdick E, Katz JT, et al. Effect of reducing interns’ work hours on serious medical errors in intensive care units. N Engl J Med. 2004 Oct 28;351(18):1838-48.
6. Barger LK, Cade BE, Ayas NT, Cronin JW, Rosner B, Speizer FE, et al. Extended work shifts and the risk of motor vehicle crashes among interns. N Engl J Med. 2005 Jan 13;352(2):125-34.
7. Robbins R, Weaver MD, Quan SF, Sullivan JP, Qadri S, Glasner L, et al. Evaluating the impact of a sleep health education and a personalised smartphone application on sleep, productivity and healthcare utilisation among employees: results of a randomised clinical trial. BMJ Open. 2022 Sep 14;12(9):e062121.
8. Kjørstad K, Sivertsen B, Vedaa Ø, Langsrud K, Vethe D, Faaland PM, et al. The effects of digital CBT-I on work productivity and activity levels and the mediational role of insomnia symptoms: data from a randomized controlled trial with 6-month follow-up. Behav Res Ther. 2022 Jun 1;153:104083.
9. van Eerde W, Venus M. A daily diary study on sleep quality and procrastination at work: the moderating role of trait self-control. Front Psychol. 2018;9:2029.