SNSのタイムラインをスクロール中、いつの間にか最後まで読んでいたマンガが実は広告だった――そんな経験をしたことのある人は少なくないだろう。広告マンガという手法が、デジタルマーケティングにおける選択肢のひとつとなって久しい。累計97万部を突破している『東大教授がおしえる やばい日本史』シリーズでマンガパートを担当している横山了一先生は、そんな広告マンガの黎明期からこのジャンルに関わってきたパイオニアのひとりでもある。
このたび、シリーズ最新作『東大教授がおしえる 超!やばい日本史』の発売を記念して、横山先生にインタビューを敢行。広告マンガを取り巻く環境や、作品づくりの考え方について語っていただいた。(構成:田中裕子/写真:山口真由子/企画:ダイヤモンド社書籍編集局)

「一夜でブレイク」が本当に起きる時代
――『東大教授がおしえる やばい日本史』シリーズではテンポのいいマンガで本の世界観をつくってくださっている横山先生ですが、実は広告マンガ(商品の魅力を伝えるためにマンガを使うマーケティング手法)の先駆者でもあります。先生が広告マンガに関わるようになったきっかけを教えてください。
横山了一(以下、横山):そもそもなぜSNSを生息地にしているのか、というところからお話ししますね。僕は2002年、「ヤングマガジン」誌でデビューしました。はじめは順調だったんですが、デビューから13年目、今から10年くらい前は、連載の仕事が少なくて苦しい状態だったんです。このままだと東京に住むのがしんどいな、と考えてしまうくらいに。
そんな状況を打破するため、どこかで連載の声がかからないかという思いもあってTwitter(現X)に育児マンガを載せてみました。当時はSNSに作品をアップするマンガ家はあまりいなかったのですが、背水の陣の気持ちで。
「僕に対する息子の態度がひどい」という家族ネタだったのですが、あっという間に2万リツイートを超えました。翌日には編集者から連絡が入り、単行本化を前提として連載のお話をいただきました。2015年4月のことです。
――一夜にしてブレイクされたんですね。
横山:おかげさまで、そこからフォロワーも増えていきました。広告マンガに携わり始めたのはその2年後、2017年です。
僕も初期からお世話になったwwwaap(現Minto)はじめいくつかの会社が、SNSでフォロワーが増え始めていたマンガ家たちに声をかけ始め、広告マンガの火がついていったと認識しています。
ですから、ネットマンガでフォロワーが増えた結果、広告マンガの依頼が来た……という流れですね。
――広告マンガは最初からうまくいきましたか?
横山:いえいえ、全然です。黎明期ならではの謎めいた企画もあったり(笑)、「これは広まらないよな」と思いながら受けたら案の定、という案件もあったりで……。
ただ、そこから業界全体としてもどんどんノウハウが確立されていき、広告マンガというジャンルが盛り上がっていきました。
我が家は妻もマンガ家で、僕と同じくSNSで積極的に活動をしています。一時期、2人とも広告マンガでかなり忙しくさせていただき、おかげで家を建てることもできました。
――それはすごい!
横山:以前に比べるとここ5年ほど、広告マンガはやや下火ではあります。コロナ禍で下がり、ウクライナ戦争でまた下がり。ただ、肌感覚ですが、最近また少しずつ回復してきた感じはありますね。
「なんとなく読んでしまう」人をつかむ
――マンガをプロモーションに使うメリットは何だと思われますか?
横山:シンプルに、文章や写真だけの投稿よりもSNSのタイムライン上で目を引くことです。マンガが目に入ると、なんとなく読んでしまうという人は多いんですよね。そして、ちゃんとつくられたマンガはコマからコマへと視線が誘導されるし、つい読み続けてしまいます。テキストや静止画では素通りされてしまう内容でも伝えやすい、というのが大きなメリットでしょう。

プラットフォームで言えば、広告マンガにはXが向いていると思います。XはSNSの中でいちばん遠くまで、つまりフォロー外の人にも届く可能性が高いプラットフォームです。たとえPRでも、うまくいけばたくさんリポストされ、インプレッションも跳ねます。結果的に、高い効果を挙げることができるわけです。
――創作マンガをつくるときとは、頭の使い方が違いますか?
横山:まったく違いますね。広告マンガは、自分のカラーを出しつつ目的に沿ったリクエストに確実に応えていく、という意味で社内デザイナーの仕事に似ています。あるいは、企業さんからの必須条件を網羅した上で情報や感想を整理していく作業は、レポートを書く感覚とも近いかもしれません。どの案件でも、読みやすく、わかりやすく、おもしろく、というスタイルを意識しています。
――広告マンガに向いている商材はあるのでしょうか。
横山:うーん、どうでしょう。絶対的に向いている商材があるというより、僕自身が消費者として「いい」という実感を持って描ける商材が「いい商材」だと言えるかもしれません。マンガを描くときには実際に試した感想を落とし込むので熱量を伝えやすいんです。「これはおいしい!」「子どももこんなふうに喜んでいた!」と素直に描いたものは、読者にもストレートによさが伝わるなと思います。
具体的な商材で言うと、デオドラントや洗剤といった日用品や家族で使えるものは実感を持ちやすいですね。レポートとして整理して書きやすいし、生活感のある描写が読者の共感を呼びやすく、バズる傾向にもあります。僕が家族エッセイマンガを描いていることもあり、フォロワーもそういう話を求めているのもあるかもしれません。
――企業の方は、そのマンガ家の「らしさ」と商材との相性を見極めることが大切ですね。
横山:そうですね。あ、向いている商材でいうと、食べ物のPRは広がりやすいと感じています。僕の案件で言うと「ザ★チャーハン」は受けがよかったですし、ほかのマンガ家さんが食べ物系でバズっているのもよく目にします。あとは、映画の案件も割と伸びやすいかな。うまく魅力を伝えれば伸びるジャンルですね。
「一点突破」で魅力を伝える
――映画の場合、どのような意識でつくるのでしょう?
横山:「この映画のどこがおもしろかったか」をとことん絞ります。あらすじになると読んでいて楽しくないので、「ここを観てほしい!」とアピールしたいところだけをマンガにすると多くの人に届く印象です。
――網羅的にしないほうが読まれるんですね。逆に、難しい商材はありますか?
横山:正直なところ、「おトクさ」がウリのサービスなど、無形のものは難しいなと感じます。笑いどころがつくりづらいし、情報が「説明」になってしまいやすいんです。アピールポイントが「おトク」一点突破になってしまうからバリエーションも出しづらい。マンガの力を発揮しづらいと言えるかもしれません。
もちろんそういう商材のときにもやりようはあって、キャラクターの掛け合いで笑わせたり、伝えたいことをいかに読みやすくするかを考えたりします。たとえば企業さんが伝えたい説明が長いときは、逆にそれに突っ込んだりギャグにしたりするコマをつくったり。「読みやすい」と「楽しい」の基準には必ず到達するように、と考えていますね。
ヤンマガで学んだ「とにかく簡潔に」の教え
――広告マンガのデメリットとして、「#PR」とタグがつくとアクセスが落ちると耳にしたこともあります。
横山:そういう側面はあるかもしれませんが、僕は、PR表記はあったほうがいいと思います。純粋なマンガだと思って読んでいて、それが宣伝だとわかったときって反感を持たれてしまうんですよ。僕自身、感動したミニドラマが企業のCMだとわかるとがっかりしてしまうので、気持ちはわかるのですが(笑)。
実際に数年前、ある映画作品のPRで大きな炎上が起きました。当時はまだPR表記の基準が明確ではなかったのですが、複数のマンガ家たちが一斉に「おもしろかった」とマンガをアップしたとき、「純粋な感想と思って読んだのに、これ広告じゃないか?」と炎上してしまったんです。
感想は感想のはずなんですが、報酬が発生していることで「感想ぶっている」と拒絶された。欺かれた、やられた、というような感覚を持たせてしまったのでしょう。
僕は当事者ではなかったのですが、その騒動はよく覚えています。その後くらいから、PRタグをつけることがルール化されたはずです。広告や宣伝は、どうしても嫌われてしまう要素がある。「純粋な創作」が求められるのは仕方がないことだと思います。

――そんな前提の中、「効く」広告マンガをつくるうえでどのようなことを意識されていますか?
横山:映画の話と通じますが、欲張ってあれもこれもと入れないことです。1コマあたりの情報量を絞り込んで、テンポよくページを進めることも大切です。
僕は「ヤングマガジン」でデビューしたのですが、ヤンマガでは「セリフはとにかく簡潔に」と教え込まれたんです。少年誌は子どもたちが一生懸命読み込むから情報量が多くてもいいけど、青年誌の読者はざっと読むからぱっと理解できるようにしろと。少しでもセリフが長くなると、「もうちょっと削れないかな」と編集者さんに指摘されていました。
Xのタイムラインも、ざっと見るものじゃないですか。だから、当時の教えが活かせているのかもしれませんね。
それでいうと本来、注意書きもなるべく少ないほうがいいのですが……ここは難しいところですね。企業さんから「注釈でしっかり説明を書いてほしい」と言われれば応えますが、本音を言えば「ないほうが読まれるのに」とは思います。
――横山先生は、どんなオーダーだと描きやすいと感じますか?
横山:遊び心を入れたり、おもしろくできる余白を残しておいてくれるとうれしいです。実際、全部のページに情報がギチギチに詰まっていたら、読み手としてもキツいですよね。結果的にそのマンガは広まらず、認知拡大にもつながりにくくなってしまいます。マンガ家がある程度自由にできる部分があると、いい結果に結びつきやすくなると言えるかもしれません。
あと、よく聞かれるのですが、仕事を請けるときは「バズりそうかどうか」で判断はしていません。もちろん、いただいた案件には最後まで責任を持って向き合います。でも、バズるかどうかは、正直運の部分も大きいんですよね。だから僕としては、「バズらせる」こと以上に、依頼者が納得できるマンガをちゃんと描くことを大事にしています。
(本原稿は『東大教授がおしえる 超!やばい日本史』の刊行を記念した特別インタビューです)











