地政学的な緊張、見通せない物価、そして生成AIの急速な台頭。先の読めない時代に、マネジャーは何を拠り所にすべきか。半世紀以上前から「マネジメントの父」と呼ばれてきたピーター・ドラッカーは、その答えを驚くほどシンプルな3つの原則に凝縮していた。この記事では『チェンジ・リーダーの条件――みずから変化をつくりだせ!』の洞察をひもとき、不確実な令和を生き抜くマネジャーの足場を示す。本連載では、膨大なドラッカーの著作を読み返し、その中から令和の現在に役立つ知を取り出して紹介していく。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

ドラッカー組織の存在理由

組織は目的ではなく手段である

 地政学リスクが高まり、物価の見通しも立たず、生成AIが仕事の風景を一夜にして塗り替える。こうした時代、自分の所属する組織がこの先どうなるのか、不安に思わないビジネスパーソンはいないだろう。

 そんなとき思い出したいのが、ドラッカーが本書で繰り返し説いた原則である。本書には、組織は「目的ではなく手段である」と指摘する。会社も役所も病院も、それ自体のために存在しているわけではない。社会や顧客のニーズを満たすためにこそ存在している、ということだ。

企業も公的機関も、社会の機関である。それらの組織は、それ自身のために存在するのではなく、それぞれの機能を果たすことによって、社会や地域や個人のニーズを満たすために存在する。

――『チェンジ・リーダーの条件』より

 この一文は、いまの時代に響く。AIに仕事を奪われるかもしれないと怯えるのも、業績の波に一喜一憂するのも、組織を「目的」として見ているからかもしれない。組織はあくまで道具なのだ。問うべきは「うちの会社はどうなるか」ではなく、「うちの会社は何をなすべきか」である。

マネジャーが背負う「3つの役割」

 その手段としての組織の中核を担うのがマネジメントだ。ドラッカーは本書のなかで、マネジメントには互いに異質だが同じく重要な役割が3つあると述べる。

 第一に、組織固有の使命を果たすこと。第二に、働く人を生産的にし、生き生きと働けるようにすること。第三に、社会への影響に責任を持ち、社会の問題解決に貢献すること。この3つだ。

 第一の「使命を果たす」とは、企業なら経済的な成果をあげることを指す。本書には、企業のマネジメントは「あらゆる意思決定とあらゆる行動において、まず経済的な成果をあげることを考えなければならない」と書かれている。利益を出せない企業は失格、というシンプルな宣告だ。

 第二の「働く人を生かす」は、現代でこそ重みを増している。本書では、組織にとって真の経営資源は人だけであり、成果は人的資源の生産性向上によってもたらされるとされる。生成AIがどれだけ進化しても、その活かし方を決めるのは人なのだ。

 第三の「社会的責任」は、ESGやサステナビリティが叫ばれる現代を半世紀以上前から見通した視点だ。組織は社会の一部であり、地域や環境に影響を与えざるをえない。だからその影響に責任を負わねばならない、というのである。

仕事に人を合わせる難しさ

 3つの役割のうち、令和のマネジャーが最も頭を悩ませているのは、おそらく第二の「働く人を生かす」だろう。リモートワーク、ジョブ型雇用、AIによる業務代替。働き方の前提が次々と書き換わるなかで、ドラッカーの言葉は新鮮に響く。

 本書で印象的なのは、仕事を仕事の論理で編成するのは「最初の段階にすぎない」とした点だ。本当に難しいのはその先、つまり仕事を人に合わせる段階だとドラッカーは述べる。

人を生かすには、一人ひとりの人間を、生理的にも心理的にも、独自の特性、能力、限界をもち、独自の行動様式をもつ生きた存在としてとらえなければならない。

――『チェンジ・リーダーの条件』より

 効率を追えば、仕事の論理は一律のマニュアルや標準化を求める。だが人の論理はそうではない。一人ひとり、得意なことも限界も違う。この食い違いをどう埋めるかこそマネジャーの腕の見せ所だ、というわけだ。

不確実な時代の羅針盤として

 戦争、インフレ、AI――令和のマネジャーの目の前にある不確実性は、過去のどの時代と比べても引けを取らないように見える。だが視点を変えれば、ドラッカーが提示した3つの役割は、こうした嵐のなかでこそ羅針盤として機能するのではないだろうか。

 使命を見失わなければ、市場の混乱に振り回されすぎずに済むかもしれない。働く人を生身の存在として捉え続ければ、AI導入の局面でも「人にしかできない仕事」を見極められるだろう。社会への影響に目を配れば、短期的な利益に流される愚を避けられるかもしれない。

 本書を読み返して気づくのは、ドラッカーが語る原則の射程の長さである。半世紀以上前に書かれた言葉が、この時代のマネジャーの足場として、いまも揺るがず立っている。

 次に重要な意思決定を迫られたとき、ドラッカーの3つの問いを自分に向けてみてはどうだろう。組織の使命に集中できているか。働く人の強みを引き出し、生かしているか。社会への影響を自ら処理できているか。この3点を確かめるだけで、迷いの大半は晴れていくはずだ。