ピーター・F・ドラッカーの著作の中でも、最も広く長く読み継がれてきた名著『経営者の条件』。タイトルには経営者とあるが、この本は「経営者にとって役立つ」だけの本ではない。それこそ普通のビジネスパーソンはもちろん、アーティスト、クリエイター、アスリート、学生、さらには家庭人としても多くの示唆をもらえる一冊なのだ。ドラッカーの入門編としても、ぴったりだ。さて、ドラッカーが教える「成果をあげるための考え方」とは?(文/上阪徹)

経営者の条件Photo: Adobe Stock

成果をあげるリーダーに、特定の傾向はない

 成果を出したい人、自らを成長させたい人、習慣を変えたい人、自分の強みを活かしたい人……。いろいろな人に、成果をあげるための多くの学びが得られるはずである。ドラッカーの『経営者の条件』は、経営者のためだけの本ではないからだ。

 原題は『The Effective Executive』。本書でドラッカーは、知識の時代においては一人ひとりがエグゼクティブである、と唱えている。1966年の発刊だが、いまだに世界中で多くの人々に読み継がれている超ベストセラーだ。

 この本のテーマは「成果をあげるために自らをマネジメントする」方法。序章ではまさに「成果をあげるには」と題して、そのための8つの習慣化について語られる。

 さて、成果をあげる、とりわけ組織で成果をあげる、と聞いて多くの人はどんなイメージを持つだろうか。

 カリスマ的なリーダーシップでグイグイと引っ張るか。素晴らしいコミュニケーション力で人を心酔させるのか。それとも人間性で大きな信頼を勝ち取るか。しかし、序章はこんなフレーズから始まる。

成果をあげるには、近頃の意味でのリーダーである必要はない。ハリー・トルーマン大統領にはカリスマ性はかけらもなかった。それでいながら史上最高の大統領の一人だった。私がこれまでの六五年間コンサルタントとして出会ったCEO(最高経営責任者)のほとんどが、いわゆるリーダータイプでない人だった。(P.2)

 ドラッカーは出会ったCEOについて、「性格、姿勢、価値観、強み、弱みのすべてが千差万別だった」と続ける。「外交的な人から内向的な人、頭の柔らかな人から硬い人、大まかな人から細かな人までいろいろだった」。

 つまりは、成果をあげるリーダーに、特定の傾向はないということだ。多くの人が持っている「きっと成果をあげるリーダーというのは、こういう人に違いない」というイメージは、まるっきりピント外れである可能性が高いということである。となれば、それを目指しても意味がない。

 では、何が問われるのか。

やりたいことでなく、やるべきことをやる

 ドラッカーは、成果をあげたリーダーがやっていたのは、「8つのことを習慣化していたから」だったと書く。

(1)なされるべきことを考える
(2)組織のことを考える
(3)アクションプランをつくる
(4)意思決定を行う
(5)コミュニケーションを行う
(6)機会に焦点を合わせる
(7)会議の生産性をあげる
(8)「私は」ではなく「われわれは」を考える
(P.2)

 そして、成果をあげたリーダーは、これら8つのうち最初の2つによって「知るべきこと」を知り、次の5つによって「成果をあげ」、残りの一つによって「組織内の全員に責任感をもたらした」と記す。

 まず「知るべきこと」を知ることが、第一に身につけるべき習慣だという。(1)も(2)も、特別なことではなく、それほど難しいことには思えない。だが、だからこそ、落とし穴が潜んでいる。

「何がしたいか」ではない。あくまで「何がなされるべきか」なのだ。これこそが成功の秘訣であり、これを考えなければ、いかに有能であっても成果をあげることはできない、と名経営者の一人を例にあげる。

ジャック・ウェルチがGE(ゼネラル・エレクトリック)のCEOに就任したとき、会社にとってなされるべきことは、自分がしたかった事業の海外展開ではないことを知った。それは、いかにいま利益があがっていようとも、世界で一位あるいは二位になる価値のない事業からは手を退くことだった。(P.3)

 自分がやりたいことをやってはいけないのだ。なされるべきことをやらないといけない。しかも、なされるべきことは常に複数ある。だが、リーダーにできることは限られる。だから、自らが得意とするものに集中しなければならない。

 そして第二に身につけるべき習慣は、「組織にとってよいことは何か」を考えること。「株主、従業員、役員のためによいことは何か」ではなく、「組織としての会社にとってよいこと」。特に同族企業の人事において重要だと記す。

同族企業が繁栄するには、同族のうち明らかに同族外の者よりも仕事ぶりの勝る者のみを昇進させなければならない。(P.5)

問題から始めるのではなく、機会から始めよ

「(3)アクションプランをつくる」とは、計画をすることだ。「成果をあげる」行動の前には計画しなければならない。そしてチェックポイントも必要になる。

アクションプランなくしては、すべてが成り行き任せとなる。途中でアクションプランをチェックすることなくしては、成り行きの中で意味のあるものとないものとを見分けることすらできなくなる。(P.7)

 行動については「(4)意思決定、(5)コミュニケーション、(6)機会、(7)会議」を考えることが必要だという。

 意思決定とは、次の4つだ。「実行の責任者」「日程」「影響を受けるがゆえに決定の内容を知らされ、理解し、納得すべき人」「影響を受けなくとも決定の内容を知らされるべき人」。興味深いのは、人事の意思決定について、だ。

人事がうまくいかなかったときには、動かされた者を無能と決めつけてはならない。人事を行った者が間違ったにすぎない。マネジメントに優れた組織では、人事の失敗は異動させられた者の責任ではないことが理解されている。(P.8)

 コミュニケーションで問われるのは、語ることではなく、聞くことだ。アクションプランについて、上司、部下、同僚に示し、意見を聞いておく。同時に、自分がいかなる情報を必要としているかという情報ニーズについても理解をしてもらう。

 機会については、興味深い指摘がある。多くの組織やリーダーにとって、行動しやすいのは、問題や課題の解決だからだ。

問題ではなく、機会に焦点を合わせることが必要である。もちろん問題を放っておくわけにはいかない。隠しておけというわけではない。しかし問題の処理では、いかにそれが重大なものであろうとも、成果がもたらされるわけではない。損害を防ぐだけである。成果は機会から生まれる。(P.11)

 ほとんどの組織の月例報告は問題の列挙から始まるのだという。そうではなくて、機会を最初に列挙すべきだ、と。

 会議の生産性アップでは、リーダーが何をすべきか、名経営者の実例が上げられている。

 成果をあげる習慣の最後は「私は」といわずに、「われわれは」と考え、「われわれは」と言うこと、と記す。

 成果をあげることは習慣。8つはその大きなヒントである。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。