ピーター・F・ドラッカーの著作の中でも、最も広く長く読み継がれてきた名著『経営者の条件』。タイトルには経営者とあるが、この本は「経営者にとって役立つ」だけの本ではない。それこそ普通のビジネスパーソンはもちろん、アーティスト、クリエイター、アスリート、学生、さらには家庭人としても多くの示唆をもらえる一冊なのだ。ドラッカーの入門編としても、ぴったりだ。さて、ドラッカーが教える「成果をあげるための考え方」とは?(文/上阪徹)
成果をあげるリーダーに、特定の傾向はない
成果を出したい人、自らを成長させたい人、習慣を変えたい人、自分の強みを活かしたい人……。いろいろな人に、成果をあげるための多くの学びが得られるはずである。ドラッカーの『経営者の条件』は、経営者のためだけの本ではないからだ。
原題は『The Effective Executive』。本書でドラッカーは、知識の時代においては一人ひとりがエグゼクティブである、と唱えている。1966年の発刊だが、いまだに世界中で多くの人々に読み継がれている超ベストセラーだ。
この本のテーマは「成果をあげるために自らをマネジメントする」方法。序章ではまさに「成果をあげるには」と題して、そのための8つの習慣化について語られる。
さて、成果をあげる、とりわけ組織で成果をあげる、と聞いて多くの人はどんなイメージを持つだろうか。
カリスマ的なリーダーシップでグイグイと引っ張るか。素晴らしいコミュニケーション力で人を心酔させるのか。それとも人間性で大きな信頼を勝ち取るか。しかし、序章はこんなフレーズから始まる。
ドラッカーは出会ったCEOについて、「性格、姿勢、価値観、強み、弱みのすべてが千差万別だった」と続ける。「外交的な人から内向的な人、頭の柔らかな人から硬い人、大まかな人から細かな人までいろいろだった」。
つまりは、成果をあげるリーダーに、特定の傾向はないということだ。多くの人が持っている「きっと成果をあげるリーダーというのは、こういう人に違いない」というイメージは、まるっきりピント外れである可能性が高いということである。となれば、それを目指しても意味がない。
では、何が問われるのか。
やりたいことでなく、やるべきことをやる
ドラッカーは、成果をあげたリーダーがやっていたのは、「8つのことを習慣化していたから」だったと書く。
(2)組織のことを考える
(3)アクションプランをつくる
(4)意思決定を行う
(5)コミュニケーションを行う
(6)機会に焦点を合わせる
(7)会議の生産性をあげる
(8)「私は」ではなく「われわれは」を考える(P.2)
そして、成果をあげたリーダーは、これら8つのうち最初の2つによって「知るべきこと」を知り、次の5つによって「成果をあげ」、残りの一つによって「組織内の全員に責任感をもたらした」と記す。
まず「知るべきこと」を知ることが、第一に身につけるべき習慣だという。(1)も(2)も、特別なことではなく、それほど難しいことには思えない。だが、だからこそ、落とし穴が潜んでいる。
「何がしたいか」ではない。あくまで「何がなされるべきか」なのだ。これこそが成功の秘訣であり、これを考えなければ、いかに有能であっても成果をあげることはできない、と名経営者の一人を例にあげる。
自分がやりたいことをやってはいけないのだ。なされるべきことをやらないといけない。しかも、なされるべきことは常に複数ある。だが、リーダーにできることは限られる。だから、自らが得意とするものに集中しなければならない。
そして第二に身につけるべき習慣は、「組織にとってよいことは何か」を考えること。「株主、従業員、役員のためによいことは何か」ではなく、「組織としての会社にとってよいこと」。特に同族企業の人事において重要だと記す。
問題から始めるのではなく、機会から始めよ
「(3)アクションプランをつくる」とは、計画をすることだ。「成果をあげる」行動の前には計画しなければならない。そしてチェックポイントも必要になる。
行動については「(4)意思決定、(5)コミュニケーション、(6)機会、(7)会議」を考えることが必要だという。
意思決定とは、次の4つだ。「実行の責任者」「日程」「影響を受けるがゆえに決定の内容を知らされ、理解し、納得すべき人」「影響を受けなくとも決定の内容を知らされるべき人」。興味深いのは、人事の意思決定について、だ。
コミュニケーションで問われるのは、語ることではなく、聞くことだ。アクションプランについて、上司、部下、同僚に示し、意見を聞いておく。同時に、自分がいかなる情報を必要としているかという情報ニーズについても理解をしてもらう。
機会については、興味深い指摘がある。多くの組織やリーダーにとって、行動しやすいのは、問題や課題の解決だからだ。
ほとんどの組織の月例報告は問題の列挙から始まるのだという。そうではなくて、機会を最初に列挙すべきだ、と。
会議の生産性アップでは、リーダーが何をすべきか、名経営者の実例が上げられている。
成果をあげる習慣の最後は「私は」といわずに、「われわれは」と考え、「われわれは」と言うこと、と記す。
成果をあげることは習慣。8つはその大きなヒントである。
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。