ピーター・F・ドラッカーの著作の中でも、最も広く長く読み継がれてきた名著『経営者の条件』。タイトルには経営者とあるが、この本は「経営者にとって役立つ」だけの本ではない。それこそ普通のビジネスパーソンはもちろん、アーティスト、クリエイター、アスリート、学生、さらには家庭人としても多くの示唆をもらえる一冊なのだ。ドラッカーの入門編としても、ぴったりだ。さて、ドラッカーが教える「成果をあげるための考え方」とは?(文/上阪徹)

経営者の条件Photo: Adobe Stock

成果をあげる者は時間からスタートする

 成果を出したい人、自らを成長させたい人、習慣を変えたい人、自分の強みを活かしたい人……。いろいろな人に、成果をあげるための多くの学びが得られるはずである。ドラッカーの『経営者の条件』は、経営者のためだけの本ではないからだ。

 原題は『The Effective Executive』。本書でドラッカーは、知識の時代においては一人ひとりがエグゼクティブである、と唱えている。1966年の発刊だが、いまだに世界中で多くの人々に読み継がれている超ベストセラーだ。

 本書は「成果をあげる」ための8つの習慣について記した序章に始まり、「成果をあげる能力は修得できる」「汝の時間を知れ」「どのような貢献ができるか」「人の強みを生かす」「最も重要なことに集中せよ」「意思決定とは何か」「成果をあげる意思決定とは」の7つの章、さらに終章「成果をあげる能力を修得せよ」で展開される。

 テーマは「成果をあげるために自らをマネジメントする」。ドラッカーの本というと、哲学的で難しいイメージを持つ人もいるかもしれないが、本書には実践的な内容が多いのも大きな特色だ。例えば、時間の使い方。

私の観察では、成果をあげる者は仕事からスタートしない。時間からスタートする。計画からもスタートしない。時間が何にとられているかを明らかにすることからスタートする。(P.46)

 時間がない、忙しい、やりたいことができない……。そんなふうに感じている人に限って、実はどんなふうに自分の時間が使われているかを理解できていないのではないか。

したがって、時間を記録する、整理する、まとめるの三段階にわたるプロセスが、成果をあげるための時間管理の基本となる。(P.46)

 時間を管理するには、まずは自分の時間をどう使っているかを知る必要があるのだ。

第一歩は、時間の使い方を記録することから

 この文章を書いている私には、上場企業の経営者をはじめ、数多くの取材経験がある。日本で最も忙しいと思える人たちだが、ある社長が面白いことを言っていた。社長になって忙しくなり、手帳に自分がしたことを記録するようになったというのである。

 通常、手帳はあらかじめ決まった予定を書く。しかし、そうではなくて起きたことを書いていったのだ。そうすると、わかったことがあった。それほど大事でなかったことに、たくさん時間を使っていたということ。忙しい人は、ぜひこれをやってみるといい、と。

 ドラッカーもこう書く。

成果をあげるための第一歩は、実際の時間の使い方を記録することである。(P.57)

 最低でも年2回ほど、3、4週間記録をとる必要があるという。記録を見て日々のスケジュールを調整し、組み替えていく。

時間の使い方は練習によって改善できる。だがたえず努力をしないかぎり、仕事に流される。したがって次にくる一歩は体系的な時間の管理である。時間を浪費する非生産的な活動を見つけ、排除していくことである。(P.58)

 常に見直しをしていかないと、どんどん流されていく、ということだ。

 そして、大きな成果につながる「自由な時間」をできるだけまとめよ、と説く。細切れ時間がどれほどあって、その総量が大きくても、まとまった時間でなければできない仕事があるからだ。

 じっくりプランを考える、プロジェクトの戦略を練る、などはその典型例だろう。

時間をまとめるには方法がある。ある人たち、なかでも年配の人たちは、週に一日は家で仕事をしている。編集者や研究者がよく使う方法である。
ある人は会議や打ち合わせなど日常の仕事を週に二回、例えば月曜日と金曜日に集め、他の日、特に午前中は重要な問題についての集中的かつ継続的な検討に充てている。
(P.73)

 また、毎朝、自宅で仕事をしてから出社する、という選択肢もある。

部下との短い会話はまったく非生産的

「まとまった時間」は、「人のマネジメントのために時間を使う」ときも同様だ。職場でちょっとしたコミュニケーションをしておけば、いい関係が築ける、などということはない。

人のために時間を数分使うことはまったく非生産的である。何かを伝えるにはまとまった時間が必要である。方向づけや計画や仕事の仕方について一五分で話せると思っている者は、単にそう思い込んでいるだけである。肝心なことをわからせ何かを変えたいのであれば一時間はかかる。何らかの人間関係を築くには、はるかに多くの時間を必要とする。(P.51)

 ほとんどの人は、これはそれほど大事ではないだろう、と思える仕事を後回しにすることによって自由な時間をつくろうとする。しかし、それではなかなか時間は作れない。しかも、新たな予定はどんどん入ってきてしまう。

 これでは、いつまで経っても「空いた時間」は作れない。

そうではなく、まず初めに本当に自由な時間がどれだけあるかを計算しなければならない。次に適当なまとまりの時間を確保しなければならない。そして常に、生産的でない仕事がこの確保済みの時間を蚕食してはいないかと目を光らせなければならない。(P.75)

 冒頭で書いたが、さぁ仕事、というときに、まずは時間について考えることからスタートする必要がある。どのくらい時間がかかるのか、どのくらいの時間を充てられるのかを考え、締め切りを設定するのだ。

 しかも、大事な大きな仕事ばかりではなく、すべての仕事において、である。

大きな成果をあげている人は、緊急かつ重要な仕事とともに気の進まない仕事についても締め切りを設けたリストをつくっている。それらの締め切り日に遅れ始めると時間が再び奪われつつあることを知る。(P.75)

 成果をあげるには、スキルが必要だと考えている人は多い。しかし、そのスキルには、時間をうまくコントロールするスキルも含まれると強く認識する必要がある。ドラッカーが、それを教えてくれている。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。