AIツールを内製、独自LLMも自前で開発
――AI活用におけるみずほならではの特徴を教えてください。
藤井 50人のエンジニアが所属する内製開発ラボがあり、ツールの多くを自分たちで作っていることです(図3)。内製する理由は主に二つあります。
一つは、自分たちで技術に触れ、システムを構築していかなければ、急速な進化のトレンドを正確に理解し、いち早く取り入れることができないからです。技術が安定してモジュール化するまで待っていては、従来の何倍もの生産性の向上を享受する機会を逸してしまいます。早い段階から技術を検証し、試行錯誤を重ねてこそ競争優位を保つことができます。
もう一つは、コストです。外部のSaaSはライセンス制なので使う人数分の費用がかかりますが、内製すれば全社員が使えます。試算すると、外部から購入して自社システムに連携させる場合と比べて、半分以下のコストで実現できるケースも少なくありません。また、ツールを外部から購入した場合、そのままでは使えません。みずほの複雑な業務に合致するように大規模にカスタマイズするくらいなら、最初から自分たちで作る方がはるかに早く、コスト面でも有利です。
AIコーディングツールをフル活用しているため、開発の生産性は格段に高まっています。こういうものが欲しいと言えば数日以内にプロトタイプができて、初回のミーティングから実際に動くモックアップを見せられる。パワーポイントなどで示すよりはるかに高い精度で提案内容が伝わります。
独自のLLM「みずほLLM」を開発していることも大きな特徴です。GPTやClaudeといったフロンティアモデルは提供バージョンの期限が1年半から2年程度と短く、バージョンアップのたびに調整コストが発生します。
私たちはオープンソースモデルをベースに金融知識を学習させることで、バージョンを固定して安定的に使い続けられるモデルを構築しています。議事録生成など、必ずしも最高水準の性能を必要としない業務はたくさんあり、そういった領域ではオンプレミス(自社内設置)のこのモデルで十分対応できます。顧客情報など、クラウドに送れないデータもプライベートモデルで処理できるようになり、AIを活用できる範囲がさらに広がっています。金融機関の本体が独自LLMを自前で開発しているのは、国内ではあまり例がないのではと自負しています。
加えて、増え続けるAIエージェントを統合管理するダッシュボードも内製で整備しています。各エージェントの稼働状況、コスト、エラー発生箇所などを一元的に把握できるのです。
――AIエージェント相手に、労務管理のようなこともするわけですね。
藤井 ええ。将来的に何百、何千というエージェントが動く時代を見据えたプラットフォームの構築という意味でも、これも他に類を見ない取り組みだと思っています。
AI活用の三つの課題——組織の壁、人材再生産の断絶、サイバーセキュリティー
――AI活用を進める中で感じている課題について教えてください。
藤井 大きく三つあります。一つ目は、業務プロセスが組織の壁に阻まれることです。AIエージェントはビジネスユニットをまたいで一気通貫に動こうとしますが、実際の会社には部門ごとの責任範囲や承認フローが依然として存在しています。エージェントが動く論理と、既存の組織の論理が齟齬を来してしまう。
これを解決するには、AIエージェントを実装するだけでなく、会社のオペレーショナルモデル(業務運営モデル)そのものを変えなければなりません。ここにしっかり向き合わなければ、システムとして実装できても、会社の実際の仕組みとして回らず、絵に描いた餅になってしまいます。
二つ目は、人材の再生産の断絶です。プログラマー業界では、この問題はすでに顕在化していますが、若手や初心者が経験を積むための基礎的な業務がAIに代替されると、実践的に業務を学ぶ機会が失われ、ベテラン人材が育ちにくくなります。AIの性能がさらに上がれば、経営課題はAIをどう使うかから、どこに人を残すかという逆説的な問いへと変わっていくかもしれません。人が関与することで初めて価値が生まれる領域はどこなのかということを、AI活用と並行して考えていかなければなりません。
三つ目はサイバーセキュリティーです。毎週のようにオープンソースの脆弱性について情報が入るため、担当部署は情報収集と自社への影響の確認に相当な労力を費やしています。悪意ある者が高性能なモデルを手にすれば破壊的な攻撃力を持つことになります。それに対して守りを固めることは不可欠でも、固めれば固めるほど、動きが鈍くなってしまう。攻撃への対応力を高めながら、開発や活用のスピードは落とさない。これらを両立させることの難しさについては、現時点で完全な解決策があるとはいえません。








