年をとれば、物忘れは増えるもの。そう受け入れてはいないだろうか。
実際、脳は50歳を過ぎると自然に萎縮していくことが知られている。だが一方で、同じように年齢を重ねても、最後まで思考力や記憶力を保ち続ける人がいるのも事実だ。両者の違いはどこにあるのか。元オックスフォード大の医学研究者であり、医学博士として脳と糖の関係を研究してきた下村健寿氏は、その鍵が「脳の使い方」にあると指摘する。下村氏の著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』から、「死ぬまで頭が冴えている人」のシンプルな習慣をひもといていく。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

「死ぬまで頭が冴えている人」の習慣・ベスト1Photo: Adobe Stock

誰でも年をとれば「脳は衰える」

 最近、物忘れが増えた。
 集中力が続かない。

 そんな変化を、「年齢のせいだから仕方ない」と受け入れていないだろうか。

 実際、脳は加齢とともに確実に変化する。

 元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家である下村健寿氏は、著書『糖毒脳』で、こんな事実を提示している。

 2000人近くの住民を対象として脳容量の変化についても詳細な調査が進められています。その結果、男女ともに50歳を境に、脳の容量が少しずつ小さくなっていくことが明らかになりました。
――『糖毒脳』より引用

 つまり、病気でなくても、脳は自然と衰えていく。

 そう聞くと、「どうしようもない」と感じるかもしれない。

 しかし、その常識を覆す研究がある。

「死ぬまで頭が冴えていた女性」の真実

 それが、シスターたち678人を対象に行った「修道女スタディ」と呼ばれる研究だ。

 その調査で、ある女性が注目された。

 彼女の名は、シスター・メアリー。彼女は101歳で亡くなる直前まで聡明で、周囲の人々と活発に交流し、認知機能テストでも満点に近いスコアを出し続けていました。ところが彼女の脳を解剖してみると、驚くほど大量のアミロイドβが蓄積していたのです。医学的な診断基準に照らせば、彼女は間違いなく末期のアルツハイマー病であり、日常生活さえ困難なはずの状態でした。
――『糖毒脳』より引用

 医学的には、認知症であってもおかしくない状態。

 それでも彼女は、最期まで「頭が冴えていた」。

 この不思議な現象はなぜ起きたのか。研究の結果として導き出された答えは、脳の「神経回路(ネットワーク)の密度」にあった。

 アルツハイマー病が脳細胞を破壊し、メインの幹線道路を寸断したとしても、脳内に無数の裏道(バイパス)が張り巡らされていれば情報は目的地にたどり着くことができます。これを専門用語で「認知予備能(Cognitive Reserve)」と呼びます。
――『糖毒脳』より引用

 つまり、脳は単純な容量ではなく、「ネットワークの密度」で機能が保たれるということだ。

喜び、好奇心、創造性を持ち続けよう

 では、そのネットワークはどうすれば増えるのか。

 特別な訓練は必要ない。

 日々の習慣の中に、そのヒントがある。

 シスター・メアリーをはじめ、認知症の発症を免れた女性たちは皆、最期まで読書を楽しみ、社会問題について議論し、日記を書き続けていました。興味深いことに、20代の頃に書いた自叙伝の文章が複雑で表現力豊かだったシスターほど、将来の認知症リスクが低いことも判明しました。
――『糖毒脳』より引用

 読む。
 考える。
 書く。
 人と話す。

 こうした知的好奇心に溢れた創造的な行為の積み重ねが、脳の中に裏道を増やしていく。

 そして、そのネットワークが、加齢や病気によるダメージを補う。

 脳の衰えは避けられない。

 だが、その影響をどこまで受けるかは、習慣によって大きく変わるのだ。

(本稿は、『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容を引用して作成した記事です)

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。