忙しく働いていれば、自然と体力も鍛えられる――そう思っている人もいるかもしれない。しかし、日々の仕事で感じる疲れと、体力を伸ばすために必要な負荷は別物だ。負荷には、体を強くするものと、ただ余力を削るものがある。1万人以上の患者を診てきた医師が、科学的根拠に基づいて執筆した『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から、一部を抜粋・編集し、体力をつけるためのヒントを紹介する。
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体に必要な「負荷」を見極める
体力をつけるためには、「体への負荷」が必要だ。
このように「負荷」の重要性が語られることが多いが、一口に負荷と言ってしまうと、「良い負荷・悪い負荷」の区別がつきづらい。ここでは、負荷を便宜上、2つに分けて考えよう。
1つは、有酸素運動や筋力トレーニングのように、みずから意図してかける運動としての負荷である。これは体力という器そのものを押し広げ、育てていく中心的な手段となる。
もう1つは、日々の仕事の中で静かに積み重なり、余力を削っていく外からの負荷である。メールの通知や割り込みによる中断、騒音や温度などの環境ストレス、不適切な照明、姿勢の崩れや長距離移動、そして意思決定の連続やプレッシャーといった心理的・認知的な負担が含まれる。
日常の仕事によるストレスは、負荷の強度や終わりを自分でコントロールしにくく、適切な回復とセットになりにくい。そのため、単なる多忙やストレスを「自分を鍛えるトレーニング」と混同すると、負荷と回復の設計を誤りやすい。
「体力」という器をいかに大きくするか
こうした区別を踏まえると、座った姿勢が中心になりがちな現代の生活や仕事では、日々の忙しさだけで体力という器を広げるのは難しいことがわかる。長時間のデスクワークや高度な認知的作業は疲労を生むが、心肺機能や筋力を押し上げるほどの運動刺激にはなりにくい。
体力という器そのものを大きくするには、日常のルーティンとは別に、意図的に運動の負荷を組み込み、それに見合った回復と休息をセットで確保する必要がある。
たとえば筋肉の主要な燃料である筋グリコーゲンは、十分な強度と時間を伴う運動によって一時的に減少し、これが短期的な疲労の一因になる。その後、栄養と休養が整えば、時間をかけて回復していく。動物実験では、運動後に筋グリコーゲンが元の水準を上回って再び蓄えられることも報告されている(*1)。
人でも運動後に同様の回復が起こり、結果として同じ運動が以前より少し楽に感じられることがある。
重要なのは、少しずつ強くなるという変化が、負荷をかけている最中ではなく、その後の回復の時間に生まれるという点だ。
ここで押さえておきたいのは、体内では常に、負荷によって生じた疲労という短期のプロセスと、その後の回復とともに進む適応という長期のプロセスが同時に進行しているという点だ。
・疲労(短期のプロセス):負荷の直後に強く現れ、睡眠や休息によって比較的短い時間で元の水準に近いところまで戻りやすい
・適応(長期のプロセス):疲労の変動の背後でゆっくり立ち上がり、十分な回復を挟みながら、より長い時間軸で体の状態を新しいレベルへと更新していく
言い換えれば、私たちの体の中では、いま感じている疲れという短期的な変動と、少しずつ強くなっていくという長期的な変化が、負荷と回復のサイクルのなかで常に重なり合っている。この時間差のある2つのプロセスが、体力が育っていく仕組みの土台になっている。
(本稿は『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から一部抜粋・編集したものです。)
1. Nakatani A, Han DH, Hansen PA, Nolte LA, Host HH, Hickner RC, et al. Effect of endurance exercise training on muscle glycogen supercompensation in rats. J Appl Physiol (1985). 1997 Feb;82(2):711-5.






