徹夜や激務を、若い頃のように根性で乗り切る働き方は、いつまでも続けられるものではない。年齢とともに、睡眠の質や体の回復力は少しずつ変化していく。無理の代償は、ある日突然あらわれるのではなく、少しずつ積み上がっていく。1万人以上の患者を診てきた医師が、医学的根拠に基づいて執筆した『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から、一部を抜粋・編集し、不調につながりやすい働き方の原因を解説する。

「そりゃ疲れが抜けないわ…」40代から不調につながりやすい働き方Photo: Adobe Stock

無茶な働き方はいつまで通用するか

 徹夜や激務を、根性と勢いで乗り切った経験がある人もいるだろう。気力があったからできたことかもしれないが、その土台にあったのは、体力の余裕と回復の速さである。

 しかし、無理を重ねれば、その余裕は少しずつ削られていく。長時間労働に代償が伴うことは、疫学研究で示されている。

 世界保健機関(WHO)の推計では、週55時間以上の労働は、週35~40時間に比べて、脳卒中のリスクが約35%高いと報告されている(*1)。また、長時間労働は、心疾患や脳卒中の重要なリスク要因の1つとして位置づけられている(*2)。

 うつ症状との関連についても報告はあるが、地域差や研究の限界があり、因果の強さは一様ではない(*3)。

「20代は無理がきいたのに、30代以降は戻りが遅い」と感じるのは不思議ではない。平均的に見ると、年齢とともに深い眠り、いわゆる徐波睡眠は減少する。また、高齢になると、夜間の覚醒時間が増えるなど、睡眠の連続性にも変化が見られる(*4)。その分、一晩で回復できる量は小さくなりやすい

 さらに、加齢とともに、運動後の心拍の回復は遅くなりやすい。そのため、運動などの負荷の後、心拍が落ち着くまでに時間がかかることがある(*5)。筋肉や組織の修復速度も、若い頃に比べて遅くなる傾向がある(*6)。

 そこに加えて、仕事や家庭の役割が重なると、休息、特に睡眠にあてられる時間そのものが削られやすい。こうした生理的変化と生活条件の変化が重なることで、同じ無理をしても元どおりになるまでの時間は長くなりやすい(*7・8)。

 無茶の代償は、一度にまとめて返ってくるというより、疲労が抜けにくくなる、集中力が落ちる、ケガや不調が増えるといった形で、少しずつ積み上がっていく。若さの勢いで押し切れる時期は、思っているより短い。

 だからこそ、体力を使い切る働き方ではなく、回復の仕組みをあらかじめ組み込んだ働き方に切り替えること。それが、長く走り続けるための土台となる。

[注釈]
1. Descatha A, Sembajwe G, Pega F, Ujita Y, Baer M, Boccuni F, et al. The effect of exposure to long working hours on stroke: a systematic review and meta-analysis from the WHO/ILO Joint Estimates of the Work-related Burden of Disease and Injury. Environ Int. 2020 Sep 1;142:105746.
2. Kivimäki M, Jokela M, Nyberg ST, Singh-Manoux A, Fransson EI, Alfredsson L, et al. Long working hours and risk of coronary heart disease and stroke: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data for 603,838 individuals. Lancet. 2015 Oct 31;386(10005):1739-46.
3. Virtanen M, Jokela M, Madsen IE, Magnusson Hanson LL, Lallukka T, Nyberg ST, et al. Long working hours and depressive symptoms: systematic review and meta-analysis of published studies and unpublished individual participant data. Scand J Work Environ Health. 2018 May 1;44(3):239-50.
4. Van Cauter E, Leproult R, Plat L. Age-related changes in slow wave sleep and REM sleep and relationship with growth hormone and cortisol levels in healthy men. JAMA. 2000 Aug 16;284(7):861-8.
5. Sanchez M, Goswami N, Ivanov V, Valić Z, Simunic B. Independent influence of age on heart rate recovery after flywheel exercise in trained men and women. Sci Rep. 2021 Jun 8;11(1):12011.
6. Chen W, Datzkiw D, Rudnicki MA. Satellite cells in ageing: use it or lose it. Open Biol. 2020 May 20;10(5):200048.
7. Gao C, Chapagain NY, Scullin MK. Sleep duration and sleep quality in caregivers of patients with dementia: a systematic review and meta-analysis. JAMA Netw Open. 2019 Aug 23;2(8):e199891.
8. Richter D, Krämer MD, Tang NKY, Montgomery-Downs HE, Lemola S. Long-term effects of pregnancy and childbirth on sleep satisfaction and duration of first-time and experienced mothers and fathers. Sleep. 2019 Apr 1;42(4):zsz015.

(本稿は『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から一部抜粋・編集したものです。)