食後に強い眠気を感じると、「血糖値が急に上がったせい」と考える人は少なくない。昼食後に仕事の集中力が落ちると、なおさらそう思いたくなるものだ。ところが、この「定番の説明」には、実はまだはっきりしない点がある。1万人以上の患者を診てきた医師が、医学的根拠に基づいて執筆した『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から、一部を抜粋・編集し、昼間の眠気に効くヒントを紹介する。

【実は根拠が弱い】食後の眠気は「血糖値のせい」と言い切れない理由Photo: Adobe Stock

実はエビデンスが弱い「血糖値と眠気」の関係

 食後に眠気を感じると、一般には「血糖値が上がったからだ」と説明されがちである。しかし、食事内容や血糖値の変動が、人の眠気にどう結びつくのかを直接確かめた研究はあまりない

 関連を示す研究はあるものの、因果関係まで含めて明確に断言できるほかのエビデンスは、現時点では乏しいのが実情だ。

 食事、血糖、眠気、そして生産性の関係をまとめた近年のレビュー論文でも、それらの関連性は示唆される一方、因果関係については不明確だとする立場が基本となっている(*1)。

「食後は消化のために血液が胃腸に集まり、脳への血流が減ることで眠くなる」という説明もよく耳にする。確かに食後には、消化管、つまり胃や腸への血流が増えることは生理学的に確認されている。

 しかし、健康な成人では、血圧や血流の動き、つまり循環動態は、自律神経などの働きによって細かく調整されている。そのため、食事による変化があっても、重要臓器への血流は保たれやすい(*2)。

 少なくとも、「血液が胃腸に集まり、脳への血流が減る」という単純な図式は、健康な人の食後の眠気を説明するものとしては説得力が弱い

 では、何が食後の眠気の鍵を握っているのか。候補の1つとして注目されているのがオレキシンである。オレキシンは脳内で覚醒を支えるスイッチのような役割を果たす物質だ。

 動物実験や神経細胞レベルの研究では、血糖の上昇がオレキシン神経の活動にブレーキをかけることが示されている(*3)。さらに近年は、単なる血糖値の高さよりも、血糖の上がり方、つまり変化の速さがオレキシン系の抑制と結びつく可能性も議論されている(*4)。

 ただし、このオレキシンの仕組みが、日常的な食後の眠気をどこまで説明できるのかについては、まだ完全にはわかっていない。

 つまり、食後の眠気は、単独の原因だけで説明できるほど単純な現象ではない。体内時計がもたらす覚醒の落ち込み、いわゆる午後の谷を背景に、食事の量や内容、睡眠の状態、自律神経の反応、そして脳内の覚醒維持システムであるオレキシン系の変化など、いくつもの要素が重なって生じる現象と捉えるのが、現時点では妥当である。

「昼過ぎの眠気」に効く方法とは?

 昼過ぎの眠気が強いときは、10~20分の短い仮眠を挟むと、眠気が抜けやすい。目安は13~15時頃で、遅くとも16時より前にとどめたい。

 長く寝すぎたり、遅い時間にとったりすると、夜の寝つきを邪魔しやすいので、短めに、早い時間にとるのを基本にする。

 短時間で切り替えたい日は、カフェインを含む飲み物を1杯飲んでから仮眠をとる、いわゆるカフェインナップも選択肢になる。

 カフェインナップとは、カフェインを摂取してすぐに10~20分の仮眠を取る方法で、カフェインだけ、あるいは仮眠だけの場合よりも、眠気の軽減効果が得られやすいとされている(*5)。

 カフェインは、摂取から効き始めるまでに少し時間がかかる。その待ち時間を仮眠にあてることで、目覚める頃にカフェインによる覚醒作用が重なり、頭がすっきりしやすくなる。

 コーヒーやお茶を1杯飲み、すぐに横になって10~20分だけ目を閉じるというシンプルな方法だ。

[注釈]
1. Kaneda H, Kageyama I, Kobayashi Y, Kodama K. The influence of food intake and blood glucose on postprandial sleepiness and work productivity: a scoping review. Nutrients. 2025 Oct 14;17(20):3217.
2. Zreik F, Meshulam R, Shichel I, Webb M, Shibolet O, Jacob G. Effect of ingesting a meal and orthostasis on the regulation of splanchnic and systemic hemodynamics and the responsiveness of cardiovascular α1-adrenoceptors. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2021 Nov 1;321(5):G513-26.
3. Burdakov D, Jensen LT, Alexopoulos H, Williams RH, Fearon IM, O’Kelly I, et al. Tandem-pore K+ channels mediate inhibition of orexin neurons by glucose. Neuron. 2006 Jun 1;50(5):711-22.
4. Viskaitis P, Tesmer AL, Liu Z, Karnani MM, Arnold M, Donegan D, et al. Orexin neurons track temporal features of blood glucose in behaving mice. Nat Neurosci. 2024 Jul;27(7):1299-308.
5. Reyner LA, Horne JA. Suppression of sleepiness in drivers: combination of caffeine with a short nap. Psychophysiology. 1997;34(6):721-5.

(本稿は『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』から一部抜粋・編集したものです。)