観光サービスを提供する側にとっても大きなメリットがあります。需要の平準化は、宿泊施設や飲食店などの収益力を上げる効果があります。日本の旅行総消費額は28兆円とすでに大きく、需要の規模が問題ではありません。日本の観光産業の真の問題は「生産性が低い」ことなのです。休日を分散し、需要を平準化させることで日本の観光産業の最大の課題を解決していくことができます。
もう一つ重要な効果があります。需要が平準化することは「正社員の雇用増加」に直結します。現状、観光産業の雇用者は約75%が非正規雇用です。なぜなら、繁忙日と閑散日では必要なスタッフ数がまったく違うので、その増減を非正規雇用で調整せざるを得ないからです。
しかし、休日を分散して需要を平準化すれば年間を通じた稼働率が安定するため、正規に雇用できるスタッフは増やすことができます。観光人材を育てていくには、地域で生活する優秀な人材を定着させる必要があります。そのためには観光産業の生産性を上げて、正社員数を増やし、その平均年俸を上げていく必要があるのです。極端な繁閑の差の中で、非正規雇用率が高く、正社員待遇も十分でないという状況は、観光産業の長期的な競争力強化において修正しなければいけない最も重要な課題の一つなのです。
このように休日分散化による需要の平準化は、旅行者にも観光産業にも大きなメリットがある一石二鳥の政策なのです。
大型連休を地域別に取得する
星野佳路(ほしの・よしはる)さん星野リゾート代表
1960年長野県軽井沢生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程を修了。帰国後、91年に先代の跡を継いで星野温泉旅館(現星野リゾート)代表に就任。以後、経営破綻したリゾートホテルや温泉旅館の再生に取り組みつつ、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB(ベブ)」などの施設を運営する“リゾートの革命児”。2003年には国土交通省の観光カリスマに選出された。
では、どうすれば休日を分散することができるでしょうか。
日本には祝日が多くあり、その祝日に休みが集中することが旅行需要集中の原因の一つです。祝日に休むのをやめて、それぞれが有給休暇で分散するということも方法の一つですが、祝日が休日であるという制度は定着しており中期的には変えられないと考えています。
そこで私が提案しているのは、「今ある大型連休を地域ごとに分散して取得する」という策です。
ゴールデンウィークを例にすれば、5月の1週目は北海道・東北地方だけを休日にし、次の1週間は関東地方だけを休日にするというように、「人口2500万人ずつ休んでいく」という方法です。地域ごとに大型連休をずらすことができれば、現在の偏ったピーク需要を大幅に緩和することになるはずです。同じ方法を、秋にもシルバーウィークとして新設したり、冬の祝日をまとめて連休をつくり、2月に同じように分散取得するなどを行えば、年間を通して需要を分散させることができます。
実はこういう方法は海外ではすでに行われています。観光大国であるフランスでは、三つの地域ブロック別に大型連休を設定し、それが需要の平準化をもたらしています。他の観光先進国でも行われています。
需要の分散は、商品力の強化にもつながります。
例えば、九州が休暇期間のときは、九州の人をターゲットにしたキャンペーンやサービスが全国で自然に発生するようになるでしょう。今までの観光産業では、一番人口が集中している関東の市場ニーズばかりを見てサービス内容が考えられてきましたが、大型連休を地域ごとに取得すると、それぞれの地域の旅行者にきめ細かく対応した旅行商品が開発されるようになります。
「Go To トラベル」も分散化・平準化が重要
現在は休止している「Go To トラベル」政策(緊急事態宣言の延長にともない、全国一斉休止中)についても、「分散」や「平準化」という観点から考えることが必要です。
いま最も回避すべきは、観光地が「3密」の状態になってしまうことです。全日一律35%引きでは、祝休日や長期休暇に旅行者が集中してしまいます。コロナ対策で観光地では収容人数や席数を減らしているところが多く、旅行者を集中させても対応することはできません。コロナ禍の中では通常の需要レベルに戻してもオーバーツーリズムの状況に陥ってしまうのです。
それを避けるためには、需要を平準化させることが効果的です。平時の閑散日を中心にGo Toトラベルで需要喚起することができれば、密を作らずに地方の観光産業をサポートすることができます。具体的には、祝休日や繁忙期は補助率を下げるといった方法が考えられます。そうすれば、おのずと旅行者も平日などの閑散日に分散し、3密を回避することができます。
平準化という点では、「Go To トラベル」終了時のことも視野に入れておくべきでしょう。35%引きに、15%の地域共通クーポン券を足し合わせれば、実質の旅行費用は半額になります。しかし、「Go To トラベル」が終了したときには、その反動で大きな需要減が予想されます。2021年は、Go Toトラベルのエクジットプランを考えながら制度設計をすることが重要です。
20年のGo Toトラベル開始時には、地方自治体が独自のクーポン券を発行して需要増をサポートしました。しかしGo Toトラベルとの併用は、税金による経済対策として過度な割引であったと同時に、観光産業界に大変複雑な事務作業が発生しました。経済対策としての割引は、国と地方の制度を合わせて最も効率的で無駄のないレベルに設定すべきであり、併用は避けるべきだと考えます。
今年、地方自治体が独自の対策を計画する場合には、Go Toトラベル終了時の需要減緩和に当てるべきです。国と地方の対策がシンクロし、段階的にGo Toトラベルから脱却し、最終的にはソフトランディングするというのが理想です。



