体力には自信があるのに、夏になると朝から体が重く、仕事や家事に集中できない――。そんな人は少なくない。暑さの中では、体温を下げるために心臓や血管が働き続け、睡眠不足や脱水も重なることで、その日に使える体力が減りやすくなる。夏バテを防ぐために知っておきたい、暑さへの慣れ方と体力を保つ過ごし方を医師が解説する。

【医師が教える】夏の体力を保つ、暑さへの慣れ方と過ごし方のコツPhoto: Adobe Stock

暑いとなぜ、体力が消耗するのか

 普段から運動をし、階段を上っても息は切れない。それでも真夏になると、朝から体が重く、午後には集中が続かない。夜も寝つきにくい。

 夏バテは体力のない人に起こると思われがちだが、そう単純ではない。心肺機能や筋力が十分でも、暑さの中では、その日に使える力と消耗の速さが変わる

 暑い環境では、体は皮膚の血管を広げ、温められた血液を体表へ運び、汗の蒸発とともに熱を逃がす。このとき、皮膚への血流は大きく増える。

 実験室で全身を強く温めた条件では、普段は毎分約300ミリリットルとされる皮膚への血流が、推定6~8リットルに達し、心臓から送り出される血液の半分以上を占めることもある(*1)。

 これを支えるため、体を動かしていなくても脈拍が速くなり、心臓が1分間に送り出す血液量も増える。これは、体内の熱を皮膚へ運び、外へ逃がすための正常な反応だ。

 そこへ歩行や運動が加わると、同じ速さや同じ運動量でも、涼しいときより脈拍が速くなりやすい。体温調節という追加の負担を抱えたまま活動するため、体力の余裕が小さくなり、同じ動作でも長く続けにくくなる(*2)。

 つまり、暑さという環境からの負荷によって、すでに余力の一部が削られている状態と考えるとわかりやすい。

 もちろん、日常の暑さで皮膚への血流が常にここまで増えるわけではないが、暑い場所では、じっと座っているときにも、熱を逃がすための調節が続いている。さらに、湿度が高い日は汗が蒸発しにくいため、汗びっしょりでも十分に体が冷えているとは限らない。

使える体力を保つカギは、睡眠と水分補給

 拙著『体力がすべて』では、体力を3つに分けて考えた。長い時間をかけて育つ土台が「最大体力」、睡眠、水分、食事などによって変わる、その日に引き出せる上限が「実効体力」、そこから仕事や環境などの負荷を差し引いて残るのが「余力」だ。

 この枠組みに当てはめると、夏バテの構造は見えやすくなる。夏になったからといって、最大体力が急に失われるわけではない。変わりやすいのは、実効体力と余力だ。

 暑さで眠りが浅くなり、水分や食事が不足すれば、実効体力を決めるコンディションが落ちる。さらに、暑さそのものが環境からの負荷となり、同じ通勤、同じ会議、同じ家事でも、余力を余計に削る。つまり、使える体力が減り、消耗が増える。体力があるのに夏は疲れる、という現象は矛盾ではない。

 脱水も実効体力を下げうる。体重の1~2%程度の脱水でも、環境や課題の内容によっては、パフォーマンスに悪影響が出ることがある。メタ解析では、影響は特に2%を超えたときに明らかになり、注意、実行機能、動作の正確さなどが低下しやすかった(*3)。

 喉の渇きは大切な目安だが、仕事に没頭していると飲む機会を逃しやすい。さらに、高齢者では渇きを感じにくいこともある。暑い日は、外出や運動の前から少量ずつ補っておきたい。

 夜の暑さは、睡眠を介して翌日の実効体力を下げる。多くの人では、深部体温は入眠前から下がり始め、手足などからの放熱が寝つきやすさに関わる(*4)。寝室が暑いと、この放熱が進みにくく、睡眠の質が悪くなりやすい。

 68か国、700万夜を超える睡眠記録を調べた研究でも、夜間の気温が高いほど睡眠時間が短くなり、主な理由は寝つきの遅れだった(*5)。睡眠が削られれば、翌朝は実効体力が低いところから一日が始まる。さらに食欲まで落ちれば、回復に必要なエネルギーやたんぱく質も不足しやすい。

体を暑さに適応させるコツ

 最大体力が高いことに意味がないわけではない。同じ速度で歩き、同じ仕事をするなら、最大体力が高い人のほうが負担は小さい。ただし、暑さによる体温調節の負担や、睡眠・水分への影響までなくなるわけではない。最大体力が大きくても、その日の実効体力と余力は別に管理する必要がある。

 そこで役立つのが暑熱順化、つまり暑さへの慣れである。暑い環境に段階的に触れると、汗をかき始めるのが早くなり、汗で失う電解質が減り、同じ活動でも心拍数や深部体温が上がりにくくなる。こうした適応は、一般に7~14日ほどかけて進む(*6)。暑熱順化は、暑い条件でも実効体力を引き出しやすくし、余力が減る速さを緩やかにする適応といえる。

 一方、暑さから長く離れると順化は薄れる。梅雨明け、長期休暇の後、涼しい土地から戻った直後は、体力に自信があっても再度慣らした方がよい

 暑さへの慣れは、炎天下を避け、朝夕など暑さが比較的穏やかな時間帯から、屋外での活動時間を少しずつ延ばしていく。冷房を切って我慢する必要はなく、冷房の効いた場所で休んでも暑熱順化は妨げられない。

 外出や運動の判断には、湿度、日射・輻射、気温を取り入れた「暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)」が役に立つ。運動指針では、暑さ指数が28以上なら激しい運動を避け、31以上では原則として運動を中止するとされる(*7)。

 暑い日にも元気な「体力おばけ」は、最大体力が大きいだけではない。初夏から少しずつ暑さに慣れ、その日の気温と湿度に合わせて動く時間や強度を変える。水分と休憩を先回りして取り、夜は涼しい環境で眠り、体調が悪ければ予定を変える。余力を使い切らない過ごし方が身についているのだ。

 夏に必要なのは、春や秋と同じ出力を出そうとすることではない。最大体力を土台に、実効体力を守り、余力を使い切らない。

 夏に強いとは、暑さに耐え続けることではなく、暑さに合わせて体力を運用できることである。

(本記事は、『鍛えるよりも「使い方」 体力がすべて』に関連した書き下ろし記事です)

注釈

1. Charkoudian N. Skin blood flow in adult human thermoregulation: how it works, when it does not, and why. Mayo Clin Proc. 2003 May;78(5):603-12. doi:10.4065/78.5.603 PubMed PMID: 12744548.

2. Lafrenz AJ, Wingo JE, Ganio MS, Cureton KJ. Effect of ambient temperature on cardiovascular drift and maximal oxygen uptake. Med Sci Sports Exerc. 2008 Jun;40(6):1065-71. doi:10.1249/MSS.0b013e3181666ed7 PubMed PMID: 18461000.

3. Wittbrodt MT, Millard-Stafford M. Dehydration Impairs Cognitive Performance: A Meta-analysis. Med Sci Sports Exerc. 2018 Nov;50(11):2360-8. doi:10.1249/MSS.0000000000001682 PubMed PMID: 29933347.

4. Kräuchi K, Cajochen C, Werth E, Wirz-Justice A. Functional link between distal vasodilation and sleep-onset latency? Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2000 Mar;278(3):R741-748. doi:10.1152/ajpregu.2000.278.3.R741 PubMed PMID: 10712296.

5. Minor K, Bjerre-Nielsen A, Jonasdottir SS, Lehmann S, Obradovich N. Rising temperatures erode human sleep globally. One Earth. 2022 May 20;5(5):534-49. doi:10.1016/j.oneear.2022.04.008

6. Périard JD, Racinais S, Sawka MN. Adaptations and mechanisms of human heat acclimation: Applications for competitive athletes and sports. Scand J Med Sci Sports. 2015 Jun;25 Suppl 1:20-38. doi:10.1111/sms.12408 PubMed PMID: 25943654.

7. 環境省熱中症予防情報サイト 暑さ指数とは? [Internet]. [cited 2026 Jul 22]. Available from: https://www.wbgt.env.go.jp/sp/wbgt.php