「老後2000万円問題」に始まり、昨今の物価高(インフレ)、そして新NISAの狂騒曲――。メディアから流れる不安を煽るような言葉に、私たちは右往左往させられ続けている。しかし、私たちが陥っているその「将来への不安」の正体は、本当に社会制度や経済のせいなのだろうか。
独自の鋭いマネーセンスを持つ肉乃小路ニクヨ氏と、経済アナリストの森永康平氏の対談から、現代人が抱える「不安の正体」が浮き彫りになった。(本記事はダイヤモンド社の動画コンテンツ『ニクヨのマネー迷宮』を記事化したものです)
不安を語りながら、現実を直視しない人々
森永康平(以下、森永):全国で講演を行っていて最も多いのは、やはり「老後の資金をどうしようか」という相談です。2010年代の後半に老後2000万円問題が浮上して以降、それまで退職後は年金だけで死ぬまで生きていけると思っていた人たちが、急に退職までに2000万円貯めなければやばいよ、という話になってきました。
そこからわずか1、2年で、今度はその2000万円では計算が甘く、実は3000万円必要だったということになってきた。もはやいくら貯めればいいのか分からないという状況の中で、国が新NISAを始めたものだから、「これを使わないとやばいのですか?」という質問も今は多いですね。
ただ、彼らに共通しているなと思うのは、不安だとは言葉にする一方で、どうするか考えようと足元の話を聞いてみると、今いくらもらっていて、毎月いくら使っているのかをみんなちゃんと答えられないんです。それは僕に言いたくないから答えないのではなくて、意外とみんな本当に知らないんですよ。
肉乃小路ニクヨ(以下、ニクヨ):あまりお金のこと自体を考えたくないという日本人は、多いかもしれないですね。確かに。
森永:将来に対して、やたら不安だと言っているわけですが、将来のことなんて誰にも分からないじゃないですか。そんな分からないことに対しては凄まじいエネルギーを割いて不安がっているのに、明確に目に見えるはずの今に関しては全然よく理解していないんです。「いくら手取りでもらっているの?」と聞くと、「いやちょっと手取りはよく分からなくて」と。額面の月給すら正確には覚えていなくて、30万円くらいです、という感じなんです。
ニクヨ:手取りが分からない!? 手取りって、毎月口座に振り込まれる金額そのものじゃないですか。それを確認していないなんて……。それは私が国の役人だったら、社会保険料を抜き放題だと思っちゃいますね。そんなに現状把握をしていないんだったら(笑)。

森永:本当にそうなんですよ。会社員や公務員の方は確定申告しない方が多いじゃないですか。年収2000万円以上もらっているという人はそんなに多くないですし、大体みんな会社にずっと勤めていたらその会社からしかお金をもらっていないので、年末調整だけで済んでしまいます。
その結果、自分が毎月正確にいくらもらっているかも知らない。家賃なども、払い続けていて自動的に引き落とされ続けているからそんなに意識がなくなっていて、水道・光熱費が大体どれくらいなのと言っても、明細を見ないからよく分からない。そういう人がすごい多いのです。
ニクヨ:明細を見ないのね。なるほど。
森永:ええ、そういう人が本当に多くて。分からない将来のことをやたら見ようとして不安がるのに、見える今を見ないというスタンス。これこそが、マネーの迷宮を生み出しているのかなという風に思いますね。
ニクヨ:そこは私はきっちり把握しているわ。毎月入ってくる金額は確認していますし、支出の明細なども、一人暮らしだから私がチェックするしかないから見ているんですけど。そこをやっていないから迷宮入りしてしまう人が多いというのは、康平さんの現場の経験上、やはり多いという実感ですか?
まずは「モヤモヤの正体」を知ることが大事
森永:そうですね。あとは実際に、ちゃんとデータを持って出直してきてもらって、僕が見てシミュレーションしたりすると、例えば定年の時点で3500万円くらい貯めとかないときついんじゃないの、という結果が出ちゃったりするわけです。最初は2000万円って聞いていたわけだから、それより悪い結果が出てショックになるはずですよね。ところが、意外とそういう結果を受けた人たちの表情って結構晴れやかになっているのです。
ニクヨ:なるほど。それはどうしてですか?
森永:結局、これまではモヤっとした不安があるから怖かったんですよね。でも、いざ定年までに3500万円ですと言ってもらえると、いやそんなの無理でしょうというショックもあるんだけど、逆に目標が明確になっちゃったから、じゃあ残った10年とか15年でどう貯めようかと、結構前向きな思考になるじゃないですか。
そういう意味では、フロントガラスがめちゃくちゃ曇っている状態で運転をしていたらそれは怖いけれど、クリアに見えていれば、細い道でもハンドルを握ってちゃんと動けばいけるじゃんという。そういう感覚はあるかなと思います。

ニクヨ:ああ、じゃあその、康平さんのお仕事というのは、ちょっと曇っているものをキュッキュと綺麗に拭いてあげて、現状を確認させてあげることなのですね。
森永:いや、でも僕、ファイナンシャルプランナーの資格は持っているんですけど、別に会社としてファイナンシャルプランニング業務はやっていないので、その相談を受けても1円ももらっていないですね。相談を受け付けないのも悪いのでシミュレーションしますが、別にそれで1円ももらっていないんで、ボランティアみたいなものです。こういうところでそういうお話ができるから、ネタと交換に相談に乗っている、という感じですね。













