IQや才能など、生まれつき備わった能力よりも、「やり抜く力」こそが成功のカギだ――。そうした研究成果をまとめた書籍が、発売から10年経った今でも話題だ。本連載では、坂井風太氏にビジネスパーソンに必要な「やり抜く力(グリット)」についてインタビューした内容を全4回でお届けする。
第2回では、組織の中でグリットを育み、周囲に伝播させていくための考え方について聞いた。

「仕事ができる人」だけが共通して持っている意外な特徴・ベスト1Photo: Adobe Stock

パーソナリティ特性でも分かるグリットの強い人が持っている特徴

――前回の記事では、「コスパの谷を越える鍵はグリットにある」と説明いただきました。今回は、グリットと人間のパーソナリティの関連性について伺いたいと思います。

坂井風太(以下、坂井):人間には、パーソナリティ特性を表す「ビッグファイブ」という5つの性質誠実性、外向性、調和性、開放性、神経質的傾向)があります。その中で、仕事や取引先に対し誠実な人はグリットが強い傾向にあると感じています。

「お客様を裏切ってはいけない」「相手に不義理なことをしてはいけない」という人は、プロジェクト推進の過程で大きな問題が発生した場合でも、何とかゴールまで進もうと努めます。

 一方で、グリットの弱い人は途中で仕事を投げ出してしまう傾向が高い。あんなに意気揚々と手を挙げて仕事を始めたのに、すぐ心が折れて逃げ出しちゃうというシーンを多く見てきました。

――生成AIが普及する時代において、「グリット」の重要性は変わっていくと思われますか。

坂井:AIの台頭で、仕事の進め方にも大きな変化が起きています。正直、物事を構造化することやアイデアを創出して企画化することなどに関しては、大抵の人間よりも優秀でしょう。

 その意味では、これからの生成AI時代のテーマは、不器用でも「この仕事は任せてください!」と強い意志を持てるかどうかであると考えています。

 ツールの使用という観点でもグリットの差が表れます。

 例えば、ChatGPTに対して「この問題、私は○○というふうに捉えているが、どう思う?」と聞いたとき、簡単に腑に落ちてしまう人間と、納得がいくまで質問を続けて、自分なりのアイデアを探そうとする人間とでは、課題解決能力に差が生じますよね。

 仮に論理的思考力が乏しく、構造化が苦手な人間であっても、その分野は生成AIで補強できる時代になりました。つまり、人やツールを使いこなして最後まで仕事をやり抜ける人の価値が相対的に上がってきていると言えるでしょう。

「グリット」と「頑固さ」は似て非なるものだ

――グリットは「頑固さ」とはまた違うのでしょうか。

坂井:そうですね。グリットという概念は少し誤解されやすい部分もあると思っています。

 例えば、「プロジェクトを成功させるためには、○○部署の力が必要不可欠だ。何とか部長を説得しよう」というシーンがあったとします。このとき、部長を説得するために手段Aに固執することは、必ずしもグリットとは言えないと私は考えています。

 上位目的に対し柔軟に手段を変え、何とか達成していこうとすることが本来のグリットです。グリットとは、「手段」に執着するのではなく「目的」に執着する姿勢と言えるのではないでしょうか。

――これまで坂井さんが支援してきた企業で印象に残っているケースはありますか。

坂井:組織の中でも特に人事の方と接する機会が多いです。社会が急速に多様化していく中で、人材育成やマネジメントの分野を整理したいという企業は少なくありません。

 しかし、そのほかの事業部と違い、人事部は成果の証明が難しいという問題があります。成果が見えづらいからこそ途中で事業改革を中止してしまうケースも見てきました。

 一方で、先ほどの○○部署の話に戻ると、「手段Bとして、○○部署を統括する執行役員に話を聞いてもらおう」や「手段Cとして、××部署から先に導入するよう調整してみよう」などと、手段を柔軟化する姿勢を持っている人事の方も少なくありません。

 冒頭でも述べた通り、グリットは誠実性と高い相関性を持っています。そしてグリットの強さが組織で連鎖していく様子も数多く見てきました。

 上司や先輩がグリットを持っている場合、「あの人が諦めなかったから自分も最後まで粘ってみよう」と、部下や後輩も目標達成に向かって一貫して努力できる人材に育っているものです。ですから、グリットの強い人、そしてグリットを組織に伝播できる人の存在が、組織の成長に大きく関わっているのではないでしょうか。

(本稿は、アンジェラ・ダックワース著『やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』<神崎朗子訳>に関連した書き下ろし記事です)

坂井風太(さかい・ふうた)
株式会社Momentor 代表取締役社長
元DeNA人材育成責任者。子会社代表などを歴任後、現職。
体系化されたマネジメント・人材育成理論が好評を博し、業界最大手企業から急成長スタートアップまで、幅広い企業を支援。