IQや才能など、生まれつき備わった能力よりも、「やり抜く力」こそが成功のカギだ――。そうした研究成果をまとめた書籍が、発売から10年経った今でも話題だ。本連載では、坂井風太氏にビジネスパーソンに必要な「やり抜く力(グリット)」についてインタビューした内容を全4回でお届けする。
第3回では、グリットの欠如が組織に与える負の連鎖、そして「諦め癖」が染みついた組織が陥りがちな問題について聞いた。
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「グリット」が組織の硬直化に密接に関わってくるワケ
――これまで400社を超える企業の人材育成を支援してこられた中で、「グリットは個人だけでなく組織にも大きな影響を与えるものだ」と気づかれたそうですね。ここでは、「グリット」と「組織」の関係性について伺えればと思います。
坂井風太(以下、坂井):「組織全体として変化に対応する力が弱まり、業務の推進が停滞しています。何を変えるべきでしょうか」と相談を受けることがあります。いわゆる「組織の硬直化」に陥っている状態ですが、ここにグリットが大きく関わっていると考えています。
例えば、「こういう組織に成長させたい」「エンゲージメントを上げたい」と語る人事部の担当者がいるとしましょう。高い目標を持って業務に当たるのは大事なことです。
しかし、難しい問題であるほど必ず壁が待っています。「これを実施したいけど、上司や事業部を説得できない……」と嘆き、結果として「1on1」や「コーチング」などの当たり障りのない流行り施策しか導入できなくなる。
――それが続くとどうなるのでしょうか。
坂井:事業部としては「また人事が意味の分かんない施策を導入してきたぞ」と感じてしまい、人事部に不信感を抱くようになっていきます。
第三者目線で考えると、もし説得できないのであれば「その上司や事業部じゃなく、別ルートを探ればよいのでは?」と思ってしまうのですが、手段に執着してしまって諦めてしまうケースが多いんです。
人事部からの中途半端な依頼が続くと、事業部としては「現場を知らないくせに」と抵抗感を持つようになってしまう。同時に、人事のほうでも諦めがちになってしまう。こうして人事部に諦め癖が付いてしまったら、組織の硬直化を早めることになるでしょう。
つまり、グリットを一度でも放棄してしまうことは、未来に負債を残していると言えるんです。
組織で新しいことを始めるのは、例外なくコスパが悪いです。以前の記事でも紹介した通り、人は壁にぶつかるようになると当初の熱量を維持しにくくなる生き物。そこに現れる「コスパの谷」を越えられるかは「グリット」にかかっています。
組織も人も、「逃げ癖」がつくと腐っていく
――コスパの谷を乗り越えられる組織と、そうでない組織は何が違うんでしょうか。
坂井:そこにはグリットの「自己強化サイクル」が関係していると考えています。一度でも長期的な目標を粘り強くやり抜いたことのある人、あるいは組織は、やり抜いて成功に導いた経験という資産を獲得します。
仮に次の新しいプロジェクトを進めている段階でコスパの谷が現れても、「前回やり抜いて成功した自分なら、同じように乗り越えられるはずだ」と自己強化サイクルという好循環が生まれます。
一方で、コスパの谷で諦めてしまった人、あるいは組織は、最後までやり抜いた経験を持たないので、何をやっても中途半端な所で終わっちゃうんです。やり抜いて成功に結び付けた経験を持たないのは、そのまま自信の喪失に繋がります。
――その意味では、坂井さん自身も自己強化サイクルという好循環を回しているということでしょうか。
坂井:これまで話してきた通り、私はグリットを重要視しています。そして、同時に恐れてもいるんです。
「やり抜かないのはカッコ悪いことだ」「コスパの谷を越えるのは自分の役割だ」と思って生きていますが、一度やり抜くことを諦めると逃げ癖が付いてしまうという悪循環に陥りがちです。
グリットには、良い方向にも悪い方向にも自己強化されていく側面があります。だからこそ、好循環を生み出せるような習慣を心掛けています。
(本稿は、アンジェラ・ダックワース著『やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』<神崎朗子訳>に関連した書き下ろし記事です)
株式会社Momentor 代表取締役社長
元DeNA人材育成責任者。子会社代表などを歴任後、現職。
体系化されたマネジメント・人材育成理論が好評を博し、業界最大手企業から急成長スタートアップまで、幅広い企業を支援。





