IQや才能など、生まれつき備わった能力よりも、「やり抜く力」こそが成功のカギだ――。そうした研究成果をまとめた書籍が、発売から10年経った今でも話題だ。本連載では、坂井風太氏にビジネスパーソンに必要な「やり抜く力(グリット)」についてインタビューした内容を全4回でお届けする。
最終回では、グリットを鍛える方法と、困難に直面しても諦めずに挑戦し続ける「組織グリット」の育て方について聞いた。

優秀なリーダーはよく言うけど、無能なリーダーは絶対に言わない「一言」とは?Photo:Adobe Stock

「グリット」を鍛えるための方法は2つ

――これまでの記事で、いかにビジネスパーソンにとって「グリット」が重要かを紹介いただきました。では、実際に「やり抜く力」を身に付けるためには、何から取り組むべきでしょうか。

坂井風太(以下、坂井):グリットを鍛えるための方法は主に2つあります。

 1つ目が「理想自己の設定」です。簡単に言うと、やり抜かないのはカッコ悪いことだと思うように意識することです。例えば、「この資料を用意すれば、クライアントのAさんも喜ぶだろう」と思ったら、面倒くさくても準備すべきだと思います。

 以前の記事で「グリットと誠実性には相関性がある」と説明しましたが、自分だけではなく、相手の利益のことを思って取り組める姿勢が重要です。

 2つ目は「再帰属訓練法」です。例えば、プロジェクト進行でつまずいたとき、「自分に才能がないから失敗した」と諦めるのではなく、「努力の量や方法に問題があったから失敗した」と判断するように意識することを指します。

 「才能がないから失敗したんだ」で片づけてしまうと、「どうせ自分はダメなんだ」とマイナス思考に陥ってしまい、よりパフォーマンスを落とすことになります。

 そうではなく、「目的」に対する「手段」を見直して別の方法を検討しようと、粘り強く課題解決に向けて取り組む姿勢を忘れてはいけません。

チームを成長させるためにも「グリット」が重要だ

――粘り強くやり抜く姿勢は、個人だけでなく組織にも必要な風土だと感じます。では、組織として意識すべき点はありますか。

坂井:「やり抜ける個人」と「諦めてしまう個人」の差は、組織の環境に起因するものだと考えています。

 やり抜くのが当たり前という土壌の組織では、全員が目的達成のために粘り強い姿勢を持っている傾向が強いです。個人には「自己効力感」という性質があります。“自分ならできる”と思い込むことを指します。組織にも同様で “自分たちならできる”という「組織効力感」があります。

 この組織効力感が高い企業は、やり抜く文化が強いという特徴があります。諦めずにプロジェクトを達成し続けてきた経験が、“自分たちならできる”という好循環を生み出しているんだと思います。

 これを「組織グリット」と呼んでいます「失敗や挫折があっても、長期的な目標に対し情熱や忍耐力を失わない性質」は非常に重要と言えるでしょう。

――では「組織グリット」を形成している要素を教えていただけますか?

坂井:1つ目は「リーダーの率先垂範」です。リーダーが高い熱量で試行錯誤を重ねている組織では、部下や後輩にも同じ姿勢を持たなければという意識が生まれます。

 2つ目は「職業的プライド」です。やり切ることをコア文化として定義している組織には、やり抜かないことはダサいという風土ができあがります。

 3つ目は「チームの団結の促進」です。例えば何かのプロジェクトが始まるとき、組織グリットの高い企業の社員は「がんばってください」ではなく「一緒にやりましょう」という口癖を持っていました。

 最後に最も重要なポイントは「顧客志向性」です。1つ目~3つ目の要素は組織内に閉じた考え方なので、それだけでは目的がブレてしまう危険性もあります。ですから、誰のために仕事をしているのかを明確にしておくと、最後までやり抜くための糧になると言えます。『やり抜く力』の本の中でも、グリットの強い人が持っている「目的」と「他者とのつながり」を調べた研究が紹介されています。

 多様性の時代の現在、部下や後輩に対して「最後までやり抜けよ」とは言いにくいかもしれません。しかし、グリットが弱い人間は「コスパの谷」で諦めて帰る癖を持つようになり、成長が止まってしまいます。

 だからこそ重要なのは、作業を押しつけることではなく、「一緒にやり抜こう」と声をかけることです。上司や先輩が率先して困難に向き合う姿勢を見せることで、部下も「自分だけじゃない」と感じ、最後まで挑戦しやすくなります。そうした積み重ねが、やり抜く組織文化をつくっていくんです。

(本稿は、アンジェラ・ダックワース著『やり抜く力――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』<神崎朗子訳>に関連した書き下ろし記事です)

坂井風太(さかい・ふうた)
株式会社Momentor 代表取締役社長
元DeNA人材育成責任者。子会社代表などを歴任後、現職。
体系化されたマネジメント・人材育成理論が好評を博し、業界最大手企業から急成長スタートアップまで、幅広い企業を支援。