協業の壁を乗り越える方法①
「新しいゴール」を明確に示す

とはいえ、ライバル企業といきなり手を組むとなれば、「なぜ今さら競争相手と仲良くしなければならないのか」と、現場の社員から反発が起きるのは当然です。こうした感情的な壁を乗り越えるための1つ目のポイントは、「目標の変化」をトップが明確に示すことです。

マリア・テレジアは、長年の敵であったフランスと手を組む際、「フランスを倒す」という過去の目標から、「奪われた領土を取り戻すために別の敵(プロイセン)を倒す」という新しい目標へと、明確に舵を切りました。

ビジネスにおいても同様です。経営トップが「過去の競争はいったん横に置き、私たちが今目指すべき新しいゴールはこれだ」と、明確な言葉で伝えることが重要です。これが、社員の中にある「ライバル=敵」という固定観念をリセットする第一歩となります。

協業の壁を乗り越える方法②
まずは「小さな成功体験」を積む

2つ目のポイントは、「小さくてもよいので、早く成果を出すこと」です。

協業のメリットを早い段階で実感できれば、現場の不信感は薄れ、組織全体に前向きな空気が生まれます。マリア・テレジアの時代も、フランスと同盟を結んだ後、両国は共同戦線を張って戦う経験を重ねることで、徐々に信頼関係を築いていきました。

これは日本の歴史でも同じです。幕末、長年いがみ合っていた「薩摩藩」と「長州藩」が坂本龍馬の仲介で手を結んだ際(薩長同盟)、彼らはまず「武器と米の交換」という、お互いにとってメリットのある具体的な取引を行いました。この最初の成功体験が、その後の「倒幕」という大きな目標に向かうための強固な信頼関係を生み出したのです。

現代のビジネスでも、「協業」という言葉だけが先行して実態が伴わなければ、社員は不満を抱きます。だからこそ、最初は小規模なプロジェクトから始め、「この相手と組んだからこそ成果が出た」という具体的な成功体験を共有することが、大きな信頼の土台となります。

「誰と戦うか」ではなく「何を実現するか」

変化の激しい現代において、「競合だから絶対に手を組まない」という過去のルールに縛られることは、組織の成長を止める最大のリスクになり得ます。

これからのリーダーに求められるのは、「誰と戦うか(過去の競争)」に固執することではありません。「何を実現するために、誰と組むべきか(未来の目的)」を考えることです。

過去の敵味方にとらわれず、未来の目的から逆算して最善のパートナーを選ぶ。そのような柔軟な発想と決断力こそが、組織を次のステージへと導く鍵となるのです。

※本稿は『リーダーは世界史に学べ』(ダイヤモンド社)の著者による特別原稿です。