「私ら、違う仕事探した方がいいのかね?」→〈いつか自分にも起こる現実〉にぐうの音も出ない〈風、薫る第64回〉

自分たちの進退を心配するフユ

 その頃、直美(上坂樹里)は休みで、団子を買いに来ていた。

「甘いものでうやむや戦術」と、また何かを企んでいる。甘味屋の外にはシマケン(佐野晶哉)が所在なさげにいる。

「それ小説の原稿ですか?」「どうして小説家に? シマケンさんいいとこの子でしょ?」と畳み掛ける直美。

 第64回は、なりたいものになりたい理由がキーになっている。ツヤの理由、喜代の理由、そしてシマケン。

 直美の場合は生活費が必要で看護婦になった。最近の若い娘はお金のためでなく自己実現(夢)のために看護婦を目指していることに戸惑っている。生活費のためだけでなく、夢として職業を選択する可能性も広がっているのだ。

「いいとこの子」と指摘され「比較的」とシマケンは自覚している。『風、薫る』のキャラクターたちは恵まれた出自を謙遜しない。家柄が大事で厳然たる階級制があった江戸時代までの習慣であろうか。

「子どものころ病弱で、あまり外に出られなくて」「物語のなかでなら遠くへいける」と小説家を目指した動機を語るシマケン。

 だが、直美がシマケンから聞きたかったのは、そこではない。シマケンのりんへの思いを確認したかったようで。

「手ごわいですよ、りんは。相当鈍いから。健闘をお祈りします。私に手伝えることはしますけど」

 なぜ、そんな余計なお世話を、直美は買って出る?

 直美が買った大量の団子は、翌日、フユ(猫背椿)たち看病婦と、生徒たちに配られた。

「休憩中、団子でも食べながら話でもしてみてください」

 だが、そうは簡単にはいかない。

「そりゃだんごはおいしいよ。でも、これで仲とりもとうなんて甘いって」。団子の甘さと、直美の考えの甘さを掛けたセリフだ。

 そして、フユは苦いことをりんと直美に言う。

「住む世界が違うんだから。これから、あんな子たちが毎年入ってくんだろ。頭もよく、仕事もできそうな。そしたら私ら、そろそろ違う仕事探した方がいいのかね?」

「せいぜいよろしく頼むよ」と言って出ていくフユ。

 あーつらい。フユは、院長(筒井道隆)たちの企みを薄々感じ取っていた。29歳以下しか看護婦になる講義を受けられないと院長が設定したことで、ピンと来ているのだろう。

 新しいことがはじまると、古いものが淘汰されていく。厳しい現実。この先に起こることを想像すると胸が苦しくなる。

 看病婦も看護婦も共生できる方法をりんたちが考え出せたら痛快ドラマになるのだが……。