【大人の教養】「エジプトで黒死病が流行ったのはいつ?」即答できたら世界史上級者
大学入試の世界史では近年、コロナ禍の影響もあり「感染症」が注目テーマになっている。黒死病や血清、疫学は単なる暗記事項ではなく、当時の社会や政治、現代とのつながりまで問われる。特に黒死病は共通テストにも登場。代々木ゼミナールで世界史を教え、「地図の鬼」とも呼ばれる伊藤敏先生が、時代や地域を読み解く重要性を語る。

【大人の教養】「エジプトで黒死病が流行ったのはいつ?」即答できたら世界史上級者Photo: Adobe Stock

【大人の教養】「エジプトで黒死病が流行ったのはいつ?」

 大学入試の世界史では、特定の時代や地域だけが問われるわけではない。もちろん、古代から現代まで幅広く出題される。だが、近年の傾向として、伊藤敏先生が特に注目しているテーマがある。それが「感染症」だ。

「結構満遍なくは出てくるんですけれども、ただ近年ではやっぱり感染症ですね」

 2020年以降、世界はコロナ禍を経験した。その影響もあってか、世界史の入試でも感染症に関するテーマが取り上げられやすくなっているという。

 たとえば、十四世紀に世界的に流行した黒死病。あるいは十九世紀以降に発展していく血清や疫学といった分野。病気そのものだけでなく、人類が感染症にどう向き合ってきたのか、社会がそれによってどう変化したのかが問われるようになっている。

「二〇二〇年以降のコロナ禍の影響もあるとは思うんですが、十四世紀に世界的に流行した黒死病だとか、あとは十九世紀以降の、たとえばワクチンだとか、疫学というジャンルですかね。そういったところが、近年は出やすくなっているかなという印象は受けますね」

 では、黒死病は実際にどのような形で問題になるのか。伊藤先生が例に挙げるのが、十四世紀のイタリア文学である。ボッカチオが書いた『デカメロン』には、黒死病がフィレンツェで流行する様子が描かれている。

「十四世紀のボッカチオという人が書いた『デカメロン』という小説があるんですね。この中に、黒死病がフィレンツェで流行る様子が書いてあるんですよ」

 入試では、このような文学作品の記述を手がかりにして、そこから当時の社会や政治状況を問う問題が出されることがある。単に「黒死病が十四世紀に流行した」と覚えているだけでは足りない。黒死病がどの地域でどのように広がったのか。その時代のヨーロッパはどのような状況だったのか。フィレンツェではどのような政治や社会が展開していたのか。そうした知識を組み合わせて考える必要がある。

「そこから、では当時のフィレンツェはどういう政治状況だったのかとか、当時のヨーロッパはどういう状況だったのか、というふうに問題を派生させたりします」

 一見すると難しく感じる。だが伊藤先生は、きちんと学んでいれば解きやすい問題でもあると言う。感染症をめぐる問題は、文学作品だけに限らない。共通テストでも、黒死病に関する資料を読ませ、その時代を判別させるような問題が出されている。

「有名どころだと、最近の共通テストでも、エジプトにおける黒死病の感染の様子が書かれた資料があって、ではこれはいつの時代か判別しなさい、という問題がありました」

 この場合、答えは十四世紀である。黒死病というキーワードだけでなく、それがどの時代に、どの地域に広がり、どのような社会的影響をもたらしたのかを理解しておく必要がある。

 近年の入試で感染症が題材にされやすいのは、現代社会とのつながりが見えやすいからでもある。コロナ禍を経験した私たちにとって、感染症は過去の出来事ではなく、いまを考えるためのテーマでもある。

 世界史で学ぶ黒死病、血清、疫学は、単なる暗記事項ではない。人類が病と向き合い、社会を変え、知識や制度を発展させてきた歴史そのものだ。だからこそ、大学入試でも題材にしやすい。感染症というテーマを通して、受験生が歴史上の出来事を現代につなげて考えられるかが問われているのである。

(本稿は『地図で学ぶ「深読み」世界史』著者へのインタビュー記事です)