水谷豊氏水谷豊氏 Photo:SANKEI

「お言葉ですが」――。『相棒』には、視聴者の記憶に残るセリフやキャラクターが次々と生まれてきた。だが、その多くは最初から綿密に設計されたものではなかったという。主人公・杉下右京の人物像すら「あえて固めない」。25年経ってもマンネリ化しない『相棒』の秘密に迫る。※本稿は、社会学者の太田省一『「相棒」大全 25周年を迎えた傑作刑事ドラマ大研究』(星海社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

プロデューサーが重視したのは
あえて統一感を出さないこと

『相棒』を立ち上げたプロデューサーは松本基弘である。刑事ドラマは、ドラマのなかでも縛りが強いジャンルだ。「刑事による事件の解決」という図式がきわめて強固にある。それを無視するわけにはいかない。だが松本は、その基本を守りつつもドラマの制作プロセスにおいては旧習にとらわれない大胆な手法をとった。

 すべての回の脚本に関しては、まず脚本家がプロット(大まかな物語の筋書き)をプロデューサーに見せ、それをもとに必要に応じてディスカッションをする。そしてプロットに合意したら、脚本の執筆にとりかかる。むろん最終的なゴーサインを出すのはプロデューサー(この場合は松本基弘)で、途中細かいポイントで議論を重ねて何度も修正する場合もある。

 このあたりは、どんなドラマでも基本は同じだろう。ただ『相棒』の場合は複数の脚本家がいる。しかもそれぞれ作風が異なる。極端に言えば、ばらばらである。作品としての統一感を考えるならば、それは悩みの種になりかねない。

 しかし松本基弘は、脚本家の自由を最大限に尊重した。松本はその方針をこう語る。

「『相棒』全体の流れやトータルデザインについて、綿密な計算がなされていると思っていらっしゃる方がいるかもしれませんが、実はものすごく大まかなことしか決めていません」(『「相棒」シナリオ傑作選』、6頁)。