キャラクターの生みの親である輿水泰弘はまず右京を名探偵に見えるように書く。だが櫻井武晴は警察官という職務に忠実な人間という側面を足す。一方古沢良太は、変なひとに見えるように。
こうして「この人はこれをしないと決めてかからない」(古沢)という共通認識のもと、自然にさまざまな顔を持つ「杉下右京」が出来上がっていく(『「相棒」シナリオ傑作選』、396頁)。
同じことは、亀山薫をはじめとした歴代の相棒、伊丹ら警察関係者、さらには右京を取り巻く登場人物すべてに当てはまる。
どのキャラクターも前もって細かい部分まで決められているわけではなく、脚本家が「このひとはこういう一面もあるに違いない(あったら面白い)」と思って書いたことが、その都度キャラクターの一部として組み込まれていく。
偶然の配役のはずが
そのままレギュラーに
時には、脚本家の誰かが新たに登場させたキャラクターが定着していくこともある。「トリオ・ザ・捜一」のひとりである芹沢慶二は、俳優のスケジュールの都合で三浦信輔が出られないときに砂本量が登場させたのがそのまま残り、3人組になった。
また古沢良太が登場させた月本幸子は1回限りのゲストのはずが、結局レギュラー出演者になっていく(『オフィシャルガイドブック相棒』、133頁)。
こうしたことの積み重ねによって、キャラクターそれぞれも、そしてそのキャラクターたちが生息する『相棒』という世界自体もよりリアルで立体的なものになる。同じキャラクターでも細かく見れば、相反する一貫しない部分もあるかもしれない。だが現実の人間や世界は常に矛盾をはらむものだ。岩下悠子が言うところの「なんでもあり」の世界である。
『「相棒」大全 25周年を迎えた傑作刑事ドラマ大研究』(太田省一、星海社新書)
そうなったとき、常識的な刑事ドラマの枠をはみ出してしまうような驚きの展開も生まれる。シーズン3を通して描かれた美和子の「心変わり」とその顛末(てんまつ)もそうだろう。
薫と同棲していながら先輩記者の鹿手袋に惹かれた美和子は、薫と別れる。だが完全に心が離れたわけではなく、美和子は揺れ動く。刑事ドラマにおいて、普通こうした男女の三角関係が時間をかけてみっちり描かれることはない。主人公のひとりである薫が三角関係に悩むという展開は、刑事ドラマを見慣れた視聴者にとって戸惑いを感じさせるものだったかもしれない。
しかしそれすらも、やはり松本が意識して狙っていたことだ。
「壊し続けないと面白くない、でも壊し続ける限りは先が見えない。だから、『相棒』では何も決められない」(『「相棒」シナリオ傑作選』、7頁)。つまり『相棒』とは“終わりなき破壊”の産物である。そしてその結末はまだ誰にもわからない。







