「このまま定年まで働くべきか。それとも早期退職して、本当にやりたいことを始めるべきか」。50代になると、多くの人が一度はこの問いに向き合います。しかし、その答えは「退職するかどうか」ではないのかもしれません。『世界の果てのカフェ』には、その迷いを晴らしてくれる印象的な物語があります。「何度読んでもハッとする」と話題の一冊から、相談者に響いた名言について紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

52歳「早期退職すべきかどうか迷っています」。人生に効く名言・ベスト1Photo: Adobe Stock

早期退職すべきかどうか

 最近、こんな相談があった

「52歳の会社員ですが、早期退職すべきかどうか迷っています。本当にやりたいことを、いつやるべきかどうかも迷っています。どう考えればいいでしょうか?」

 相談者は、決して今の仕事が嫌いなわけではなかった。
 ただ、「このまま会社員人生を終えていいのだろうか」という不安があった。

「本当にやりたいことは、引退してからでも遅くないのか」

 その答えを探しているようだった。
 私は、この相談を聞いて『世界の果てのカフェ』に登場する「漁師と実業家」の話を思い出した。

「引退したら幸せになれる」という思い込み

 物語では、漁師が毎日を穏やかに暮らしている。
 朝は家族と朝食を囲み、子どもを見送り、数時間だけ魚を釣る。
 昼寝をし、夕方には妻と浜辺を散歩し、夕日を眺める。
 それを聞いた実業家は、こう提案する。

「もっとたくさん魚を釣ればいい。船を増やし、会社を大きくし、国際的なビジネスに育てれば、大金を稼いで引退できますよ」
――『世界の果てのカフェ』より

 これは、多くの人が信じている人生設計そのものではないだろうか。

 今は我慢する。今は働く。そして、いつか自由になる。
 そう考えている人は少なくない。

漁師が返した「たった一つの質問」

 しかし、漁師は穏やかに問い返す。

「なぜ私がそんなことをするんだ?」

 実業家は答える。

「お金のためですよ。そうしたら大金を稼いで引退できます」

 すると漁師は、さらに問いかける。

「引退したら、何をするんだ?」

 実業家は言う。

「好きなことをすればいいですよ」

 それに対して漁師は微笑みながら言う。

「家族と朝食を食べて、少しだけ釣りをして、夕方には妻と散歩して、夕日を眺めることができるかな?」

 この場面を読んだとき、私はハッとした。
 実業家が何十年もかけて手に入れようとしていた人生を、漁師はすでに今日、生きていたのである。

早期退職するかより、「今日」をどう生きるか

 相談者は、「退職するかどうか」で悩んでいた。
 しかし、本当の問いはそこではない。

「引退したらやりたいことを、今日の人生に少しでも取り入れられないか」ということではないだろうか。

 もちろん、現実には生活費もある。
 仕事を辞められない人もいる。

 だからといって、「やりたいことは10年後、15年後まで全部お預け」にする必要もない

 週末に始める。一日30分だけ時間をつくる。
 少しずつでも、自分が望む人生を今の生活に組み込んでいく。

 その積み重ねが、人生を変えていく。

人生に効く、たった一つの名言

 相談者に私はこう伝えた。

「引退後に送りたい人生なら、今日から少しだけ始めてみてください」

 早期退職するかどうかは、大切な決断だ。
 でも、それ以上に大切なのは、「幸せは引退後にしか手に入らない」と思い込まないことだ。

世界の果てのカフェ』の漁師は、未来のために今を犠牲にしていなかった。
 今を大切に生きた結果、その毎日が理想の人生になっていた。

 人生は、「いつか」始まるものではない。
 本当にやりたいことは、今日という一日の中から始められる
 その視点を持てたとき、「退職するかどうか」という悩みも、少し違って見えてくるはずである。

(本稿は、『世界の果てのカフェ』の発売を記念したオリジナル記事です)