人間関係の悩みは、「相性」や「性格」の問題だと思われがちです。しかし、『言語化だけじゃ伝わんない』では、その原因を「距離感」という視点から捉え直します。便利な時代だからこそ、人との距離は気づかないうちに離れていく。その仕組みを知ることが、人間関係をラクにする第一歩です。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「人間関係」に悩まない人
「最近、人と話す機会が減った」
そう感じる人は少なくないでしょう。
コロナ禍だけが理由ではありません。
私たちの生活そのものが、「人と話さなくても成立する仕組み」に変わってきているからです。
便利になればなるほど、人との接点は減っていきます。
その結果、知らないうちに「心の距離」も離れてしまうのです。
人と話さなくても生きられる時代になった
本書では、まず現代社会の変化についてこう述べています。
私たちはいま、ほとんど人と話さなくても日常を送れる世界に住んでいます。
自動レジ、QRコードでの注文、置配、無人タクシー……。
距離感が遠い人とのコミュニケーションを、有料のサービスが代行しているのです。
「乗車券を拝見します」というコミュニケーションもいずれなくなるでしょう。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
これはとても大きな変化です。
以前は、買い物をすれば店員さんと会話をしました。
飲食店では注文を伝え、駅では切符を見せ、宅配便では荷物を受け取る。
一日に何度も、知らない人と言葉を交わしていたのです。
ところが今は違います。
セルフレジで買い物を済ませ、スマホで注文し、荷物は玄関前に届く。
便利になった反面、「人と話す練習」をする機会も減ってしまいました。
コミュニケーション能力は、人と接することでしか磨かれません。
だから、話す機会が減れば、人間関係そのものに苦手意識を持ちやすくなるのです。
SNSは世界を狭くしている
さらに本書では、SNSについても興味深い指摘をしています。
意見を戦わせている人たちは、すでに共通点のある距離感が近い人同士です。
すでに共通の話題があるからこそ、意見の対立が見えている。
距離感の遠い人は、文字通り私たちの視界から消えて、見えなくなっているのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
SNSを見ると、世の中には対立ばかりあるように感じることがあります。
しかし実際には、その人たちは同じ話題に興味を持っているからこそ出会っているのです。
野球に興味がなければ、野球の議論は目に入りません。
投資に興味がなければ、その論争も流れてきません。
つまり、SNSで見えている世界は、自分と何らかの共通点がある人たちの世界なのです。
その一方で、自分とまったく接点のない人たちは、存在そのものが見えなくなっています。
世界が広がったように見えて、実は自分の関心の周りだけを見るようになっている。
それもまた、距離感の変化なのです。
一番離れてしまうのは、実は身近な人
そして本書は、最も重要な問題を指摘します。
個人がスマホを持って、別々のアプリを開き、それぞれのタイムラインを見る。
その環境が、人との心理的な距離感をじわじわと離れさせます。
「スマホを見ている」という点ではみんな同じ。
ただ、見ている画面の中はそれぞれ別物です。
もしかしたら、スマホの中で話す人とは「アレ」「コレ」を共有し、心の距離感を近づけているかもしれません。
でも本当に「隣にいる人」との距離感は、じわじわと離れていってしまうのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
家族で食事をしていても、それぞれがスマホを見ている。
恋人同士でカフェにいても、お互い違うSNSを眺めている。
職場でも休憩時間になると、それぞれがスマホを開く。
物理的にはすぐ隣にいます。
でも、頭の中はまったく別の場所にあります。
誰かはスポーツの動画を見ている。
誰かは仕事のニュースを読んでいる。
誰かはゲーム配信を見ている。
つまり、「今この場」を共有していないのです。
心理的な距離は、共通の体験によって縮まります。
しかし、それぞれ違う情報を見続ければ、共通理解は少しずつ減っていきます。
その積み重ねが、「最近、何を話したらいいかわからない」という状態を生み出してしまうのです。
「共通体験」を増やしている
では、人間関係に悩まない人は何をしているのでしょうか。
特別な会話術を持っているわけではありません。
相手と同じものを見る時間を増やしているのです。
一緒に映画を見る。
同じ店で食事をする。
散歩をする。
旅行へ行く。
同じニュースについて話す。
共通体験が増えれば、「あのときのアレ」が通じるようになります。
「あの店、おいしかったね」
「あの映画のラスト、驚いたね」
そんな短いやり取りだけでも、共通理解は積み重なっていきます。
人間関係は、劇的な出来事で深まるものではありません。
同じ時間を過ごし、同じ景色を見て、同じ話題を少しずつ共有すること。
その積み重ねが、心の距離を縮めていくのです。
便利な時代だからこそ、人との距離は放っておけば離れていきます。
だからこそ、人間関係に悩まない人は意識的に「共通体験」を増やしています。
話し方のテクニックよりも、一緒に何かを経験すること。
それが、人との距離を縮め続ける、最もシンプルで効果的な方法なのです。
(本記事は、書籍『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』を元にしたオリジナル記事です。)
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。




