誰もが経験したことがあるだろう。ズーム会議の話を聞きながら、同僚からの急ぎのメールに返信し、さらには子どもの放課後のスケジュール調整まで同時にこなしているというような状況を。マルチタスクは現代の生活に付きものだが、科学者たちは脳の中で実際に何が起きているのかについて長年議論してきた。長い間、脳は本当の意味で二つのことを同時にはできないと考えられていた。マルチタスクとは実際には複数の作業を同時にこなしているのではなく、脳がそれぞれの作業を素早く切り替えている状態にすぎないと考えられてきた。ところが新たな研究で、本当に複数のことを同時にこなしている可能性が示された。学術誌「Journal of Cognitive Neuroscience(認知神経科学誌)」に掲載された最近の研究によると、十分な練習と経験を積むことで、脳は神経回路を組み替えてマルチタスクに対応できるようになる。脳は学習により特定の作業を自動化する。それは、一度に一つのことにしか集中できない、高度な思考や意思決定を担う前頭前野という司令塔のような領域からほかの領域へとその処理作業を移行させることで実現される。