『エンゼルバンク』 (c)三田紀房/コルク
三田紀房作の転職マンガ『エンゼルバンク』を題材に、「転職デビル」の名で知られる転職アドバイザー・安斎響市氏が「転職のリアル」を解説する連載「『エンゼルバンク』で学ぶ転職のウソとホント」。第13回では、本当に信頼できる転職エージェントの見分け方について解説する。
「会社の利益」とは何なのか?
「転職が成功しなくても会社にはなんのマイナスにもならないって、どういうことですか?」
人材紹介業で働く新人・井野真々子は、上司の海老沢康生に問いかけます。
海老沢は、いつものように飄々とした態度で答えます。
「じゃあ井野さんに質問。会社の利益って何?」
当然、言葉通りの解釈をすれば、会社の利益とは損益計算書(PL)上の営業利益や当期純利益などを指す場合が多いでしょう。ただし、これはあくまで一般論で、海老沢の持論は違います。
「会社の利益… それはね、信用だよ」
彼のセリフは、転職エージェントというビジネスの表と裏を表しているように私は思います。
「相談者に寄り添った支援」はお金にならない
この会話の背景にあったのは、2人が所属する会社に転職相談に来た山口彬宏に対して井野が与えた助言や情報によって、山口が転職を思いとどまって現職の会社に残ることになったという、ここ数日の経緯です。
会社のビジネス視点では、潜在的な収入源をみすみす逃したことになります。しかし、上司の海老沢はそんな井野の行動を咎めることなく「会社は何も損害を被っていない」と力強く語ります。
「じゃあ… 転職者増やすことよりも会社の信用を増やすよう努力しろと…」
「そういうこと」
これはあくまで、一つのマンガ作品の中での会話ですが、もしかしたら海老沢と井野の働く会社は、とても優良な転職エージェントなのかもしれません。
「相談者に寄り添った支援を」と、多くの転職エージェントは語ります。しかし、その言葉は何だか胡散臭く、私は正直、あまり信じる気にはなれません。
この連載の第6回でも説明しましたが、転職エージェントとは基本的に成功報酬型のビジネスなので、「相談者に寄り添う」だけでは利益が発生しません。極端にいえば、それだけでは会社が潰れてしまいます。
当然ながら、自社の保有求人のうち、どこかの企業を相談者に紹介し、内定を獲得してもらわなければ事業が成立しません。
担当者の真摯な助言によって、相談者の気が変わって転職活動を中止してしまったなんて、もってのほかです。本来であれば。
「今は転職しない」選択肢を提示できるか?
転職エージェント側の視点では、「面接を受けさせて、内定を獲得させ、無事に入社させる」ところまで完遂しない限り、基本的に紹介手数料が発生しません。
そのため、どうしても相談者に対しては「とりあえず試しに面接を受けてみるだけでもいいので、来週とかどうですか!?」「現時点では入社する気がなくてもいいので、カジュアル面談だけでもぜひ行ってみてください!」と強引にグイグイ来る担当者もいます。
逆に言えば、井野のように「転職をせずに今の仕事を続けた方がいいのではないか」と提案できるエージェントは非常に貴重です。
ある意味で、自社にお金を出してくれるクライアント企業よりも、個人的には1円も払っていない相談者の方を優先して考えてくれているからです。
もちろん、この行動はただ単に「相談者への思いやり」から生じるものでもないでしょう。
「本当はこの会社に興味はないけれど、エージェントの人が強くオススメしているから……」とフラフラした曖昧な気持ちで面接を受けに行っても、おそらく良い結果は出ないでしょう。
仮に面接を通過できたとしても、自分の意思がないまま流されて転職を決めた場合、入社後のミスマッチで短期離職につながってしまったら、逆にクライアントに迷惑がかかってしまいます。
私自身も実は、20代の頃、人生で初めての転職エージェントとの面談で、「今はまだ転職しない方が良いです。次の部署に行って一定期間働いてからの方が選択肢はグンと広がります」と言われて転職時期を延期したことがあります。
あのときの担当者さんには、本当に感謝しています(Nさん、見てますか?)。
ある意味で、「今は転職しない」選択肢を提示できるかが、本当に良い転職エージェントの見分け方なのかもしれません。
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク







