『エンゼルバンク』 (c)三田紀房/コルク
三田紀房作の転職マンガ『エンゼルバンク』を題材に、「転職デビル」の名で知られる転職アドバイザー・安斎響市氏が「転職のリアル」を解説する連載「『エンゼルバンク』で学ぶ転職のウソとホント」。第9回では「異業種への転職で陥りがちな落とし穴」について解説する。
教師・公務員は世間知らず?
32歳、井野真々子。ずっと高校教師の仕事を続けてきた過去に区切りをつけ、転職アドバイザーとしての新たなキャリアを歩み出した彼女。その元教え子である大学生の二人が、キャンパスで立ち話をしています。
「へぇ。教師辞めて転職代理人。思い切ったことすんなあ……」
「ホント…… 聞いてビックリ」
「井野で転職代理人なんて務まんのかな」
「どういうこと?」
「だって教師って世間知らずだろ?。学校の中だけで生活してるから社会のことなんてなんにもわかんねえだろうし……」
「それもそうだね」
何年もお世話になった先生を「井野」と呼び捨てにして、「世間知らず」とバッサリ切り捨てるとは、なかなか辛辣な若者たちです。
もちろん、「教師は世間知らず」とひとくくりにすることはできません。ただ、教員や公務員から企業への転職では、それまでとは異なる仕事の進め方や評価基準に戸惑うケースがあるのも事実です。
そうした現実をついているという意味では、物語の描かれ方があながち的外れでもないのが、残酷なところです。
実際に、これまで私のところに転職相談に来た方々の中でも、職探しにかなり苦戦していたのが、過去に公務員や教員として働いてきた人たちです。
「書類選考さえ、一社も通らない」
「有名大学卒なのに、内定が出ない」
「年収が大幅に下がる仕事しか見つからない」
そんな声が、日々聞こえてきます。
「また公務員か……!」と思わず驚いてしまうほど、同じような悩みを抱えた相談者が多いのです。
教員・公務員は転職が難しくなるワケ
公務員と言えば、一昔前なら「安定」の象徴でした。地域によっては今でも、「県庁勤め」「市役所勤め」に安定した仕事というイメージを持つ人は少なくありません。
私は東北の田舎町の出身ですが、大学卒業後を見据えて就職活動をするときには、両親から公務員就職を強く勧められました。世界的に有名な大手企業の内定をもらった後でさえも、「今からでも、考え直して市役所に……」と言われたものでした。私の周囲では、そのくらい公務員を安定した仕事と捉える価値観が根強くありました。
教員も同様に、昔の価値観で言えば「良い仕事」の部類だったはずです。専攻が教育学部じゃなくても、とりあえず教員免許を取っておくと就職するときに安心だ、と言われていました。
しかし、それはあくまで「就職」の際の話です。
どんな仕事に就いたとしても、職場に対して個人的な合う・合わないがあるのは避けられません。「公務員の仕事は合わない」と、別の仕事に移りたくなる人は一定数います。
また、「残業が多い」「思うような収入アップが期待できない」など、待遇や働き方への不満から別の仕事に移りたいと考える人もいます。
しかし、公務員出身者・教員出身者がいざ「転職」をしようとすると、厳しい現実が目の前に立ちはだかります。
教員や公務員として培った経験が、そのまま企業側から評価されるとは限りません。採用する企業から見て、「これまでの経験を入社後にどう生かせるのか」が伝わらなければ、書類選考や面接で苦戦することもあります。
「教員の実務経験は他では役に立たない」「公務員の仕事のやり方はビジネスでは通用しない」と企業側から判断されてしまうケースがあるのです。
実際、私もそのような相談者を目の当たりにしてきました。残念ながら、現実に起こりうることなのです。
公務員がついつい使ってしまう「NGワード」
この問題の根底にあるのは、教員・公務員経験者が持っている市場価値や実務能力それ自体というより、「公務員的なマインドセット」だと私は考えています。
「地に足がついてない。社会でフワフワ浮かんでる状態。そういう人達は一度、地面に落ちてみないと目が覚めない!」
マンガの中でも、こう指摘されていましたね。
同じ組織や業界でずっと生きてきた人たちは、なかなか外の世界の感覚が分からないものです。これは公務員や教員に限った話ではありません。
特に、私が「これはマズいな……」と感じるのが、公務員出身者がたびたび口にする「民間」というワードです。
「公務員から民間企業へ30代で転職するのは、やはり難しいでしょうか?」
「民間に移った場合、公務員時代の待遇は維持できないと考えるべきでしょうか?」
こういう物言いをする人が、非常に多いです。
しかし、採用面接で「民間」というワードを口にするのはおすすめできません。
この広い世界を「公務員と民間」という二軸でしか考えられない時点で、完全に公務員気質丸出しのマインドセットなので、印象が極めて悪いからです。転職の成功率ダウンにも繋がりかねません。
「民間」と一口に言っても、メーカー、IT、金融、商社、小売など業界はさまざま。営業、企画、人事、経理、エンジニアなど職種も待遇も、求められる能力もまったく異なります。ひとくくりにできるものではないのです。
「公務員か、公務員以外か」
そういう狭い視点でしか物事を捉えられない人は、企業から見ても「ダメだこりゃ……」「この人はウチでは働けそうにないな」と思われても不思議ではありません。
本当に転職を実現したいのであれば、まずは「民間」という言葉を使うのをやめて、公務員思考から抜け出すのが大事です。
「公務員の仕事も他の仕事も実は大差ないし、過去の経験を生かせる部分は多々ある」と前向きにメンタルを切り替えることができないと、そのままずっと、転職活動が長引く可能性があります。
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク







