「どうしても怒ってしまう」という男性。本人は努力しているのに変えられない場合、どうしたらいいでしょうか。
2万人をみてきた組織開発コンサルタント・勅使川原真衣氏が、実際に職場に分け入って考えた、組織変革のコツを伝えます。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
本人の意識改革には限界がある
「ふざけんなてめぇ!」
オフィス中に、営業部長の怒声が響き渡る。部下は固まり、周囲は見て見ぬふりをする。
人事部に呼び出され、本人も反省し、アンガーマネジメントの本を買って研修にも出る。
それでも、また怒鳴ってしまう。
組織開発の仕事をしていると、人が変わるのは本当に難しいと痛感します。
特に厄介なのは、本人に悪意がないケースです。
ある職場に、部下を怒鳴ることが常態化していた営業部長の男性がいました。まさに冒頭のような状況です。
でも彼ははなから部下を傷つけたいと思っていたわけではありません。むしろ成果にこだわるあまり、本人も深く悩んでいました。「怒らないようにしよう」「でも成果を出さないと」のはざまで混乱しながらも、真剣に変わろうとしていた。
でも、変わらない。頭ではわかっている。コンプライアンスも理解している。怒鳴ったあとに後悔もする。
それでも、反射的に強い言葉が出てしまう。
つまりこれは、本人の意識改革だけでどうにかしようとしても、限界があるということです。
本人を変えるのではなく、役割を変える
注意はもちろん必至ですが、この方にさらなる叱責が功を奏すとは思えません。
むしろ必要なのは、人を無理に変えるのではなく、人の特性を見たうえで、組み合わせや環境を変えるという視点です。
組織の中で起きている問題は、個人の欠陥だけで生まれるものではない。人と役割、人と環境のミスマッチから生まれることが少なくない。
このような場合、本人を変えようとしてもなかなかうまくいきません。これは持って生まれた資質のひとつと割り切って、環境を調整するほうに考え方をシフトしてもいいでしょう。沸点の低い人をきつく指導すれば温厚になる……ってもんじゃないですよね。
そこで、このケースでは私からプレイヤーに戻ることを人事に提案しました。役割を変える、というアプローチです。役職手当が外れても、営業インセンティブで手取りが変わらないことを確認したうえで、こう伝えたのです。
「今のままだと、部下のみなさんはもちろん、彼自身もつらいですよね。育成責任を負うことだけが仕事ではありません。マネージャーが合わなければ、プレイヤーとしてまた一花咲かせたっていいじゃないですか?」
この提案によって、部下は怒鳴られる環境から解放され、本人も苦手な役割から離れることができました。トッププレーヤーではなくとも、気の長い、清濁併せ持つタイプがその後部長になりました。
向いていない役割の「修行」は組織への負荷が高い
問題の根っこには、会社側の良かれと思った思い込みもありました。
「この年齢になったら管理職になるものだ」
「部長になるのは本人にとってうれしいことだ」
「優秀なプレイヤーなら、当然マネージャーもできるはずだ」
しかし、これはどの人にも当てはまる不文律ではありません。成果を出す力と、人を育てる力は別物です。強い個人が、よい管理職になるとは限らないのです。
いまの管理職の世代には、まさにこの価値観の中で働いてきた人も多いはずです。昇進は報酬であり、管理職は出世であり、プレイヤーに戻ることは後退だ、と。
でも、本当にそうでしょうか。
「修行」の名のもと、向いていない役割に人を置き続けることは、本人にとっても、部下にとっても、骨折り損のくたびれもうけの可能性が否定できません。怒鳴る人に「変われ」とただ言うだけでは、現場の被害は止まらない。
人を変えるのではなく、環境を変える。
そのほうが、現実の組織ではよっぽどタイムリーで効果的なケースがあることも、ぜひ知っていてください。
違和感を「個人の問題」として処理せず、「仕組みの問題」として見直せるか。そこに組織の力量が問われています。
忙しいリーダーに、効果のあることだけ
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「好き嫌い」や「やる気」、
「あうんの呼吸」に頼らず
組織を機能させるための具体策!
対話より先に、やるべきことがある。
「大丈夫です」のひとことでモヤッとしたとき、
待ちの姿勢ばかりの部下に自走してもらうにはどうしたらいいのか、
スタンドプレーが多い部下に「チームで仕事をしよう」と伝えるための効果的な伝え方は?……
ビジネスの現場に尽きないコミュニケーションの悩みを、「マネジメント」のスキルとして、「3段階」に分けて打ち手を授けるのが本書です。
まずは土台となる「観察」のスキルを紹介。ここでは、違和感に着目するというユニークな手法をとります。
そして、「自分を知る」「相手を知る」「組み合わせる」の3段階で、関係性から組織の最適解を導き出します。
自分と相手の「持ち味」を知り、
組織をつなぎ直すための一手を
この3段階を経て、違和感を乗り越えるための伝え方や振る舞い方を具体例とともに紹介します。
スキルといっても、難しいものではありません。「あれ、今なんか変だったな」という気づきを、手がかりにつかむこと。
さらに本書では、「持ち味」を知るためのいくつかの診断も掲載。すぐにチームに実装できるような作りにしています。
事前に特別な準備や学習はまったく不要。やるべきことが明確になり、現場のもやもやがクリアになります。
いつでも「今ここ」での気づきから組織を改善できる。行き詰まった状態を打開する新鮮な方策が詰まった、忙しいリーダーの支えになる一冊です。

本書の内容
はじめに
ギリギリな組織の頼みの綱は
人それぞれが「正しさ」を生きている
「持ち味」の組み合わせと「解釈」のクセ
第1章 違和感とは何か? ―― 「決めつけ」が横行する現場で
観察の達人!? コナンくん
仕事に本音はいらない
「なんか変な感じ……」の正体
人はみな「違う色のメガネ」をかけている
「職場のすれ違い」は決めつけから生まれる
とにかくみんな疲れている
すべてのコミュニケーションの基本となる「観察」の3ステップ
第2章 「自分を知る」 ―― 違和感に気づくと「自分」がわかる
自分の本音がわからない
変えられない性質は確かにある
手がかりは「どうしてもとりつくろえない瞬間」
「わかってほしかった」は「解釈のクセ」が生み出している
「自分が知らない自分」はスマホが教えてくれる
第3章 次に、「相手を知る」 ―― 人間関係の違和感から「相性」を知る
「伝える」の前に「見る」がある
「言わなくてもわかるでしょ」はマネジメントの怠慢
相手の何を「見る」のか? ―― ソーシャルスタイルの4類型
「他者の合理性」を知るヒント
「人それぞれ」では話が進まない
第4章 そのうえで、「組み合わせる」 ―― 違和感を役立て最高の組織をつくる
「今いるメンバー」で最高のチームをつくる
「好き嫌い」より「相性」を考える
それは「評価」ではなく「評判」です
「自分でやったほうが早い病」への処方せん
「似た者同士」がうまくいくとは限らない
職場は「ドレッシング状態」にならなくていい
個人と組織のサンドイッチ作戦
第5章 違和感を乗り越えるための話し方・振る舞い方
役割の実行を後押しする「面談」「相談」「雑談」「対話」
「大丈夫です」の複雑さ
「よかれと思って」が残念なワケ
待ちの姿勢ばかりの部下に「自走してほしい」と伝えたい
スタンドプレーが多い部下に「チームで仕事をしよう」と伝えたい
コミュ力が高い人の「真の使命」は、相手に合った手段を選ぶこと
危うい場面で役に立つ「否定しない技術」
会議時間を短縮すれば「生産性」が高まるのか?
「困っている人」は「決めつけていない人」
第6章 「いてくれてありがとね」から始める組織改革
「いい人材がいない」と嘆く人は組織の価値を見落としている
「重すぎない信頼関係」のススメ
「健全に疑う」のススメ
100点を取ってきた子どもに「偉いね」と言ってはいけない理由
100%わかり合うことは無理、それでも「訂正」し合うことはできる
「自分のまま働く」ために
解説 ―― 坂井風太