スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。
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「自分たちが作りたいから、そのプロダクトを作る」
という呪縛から抜けること
スタートアップの初期段階で最も重要な質問は「想定したカスタマーの課題は本当に存在するのか?」ということだ。
ソリューションを考えたり、作り込んだりしていく作業は基本的に楽しい(特にエンジニアやデザイナーにとっては)。
また、ソリューションを形にしていくと前に進んでいる感じがするので充足感もあるし、「何か形にしなければ」という焦燥感を取り除くことができる。
このため、スタートアップの内部では、無条件に「モノづくり」が奨励されるような風潮があり、実装や設計が得意なエンジニアやデザイナーは、とりあえず形から入ってしまう場合が多い。
モノづくりができるスキルは貴重で、価値があるものだ。
だからこそ、そのリソースを無駄遣いしてはいけない。無駄遣いしないためには、「自分たちが作りたいから、そのプロダクトを作る」という呪縛から抜けることだ。この呪縛にはまってしまうスタートアップがあまりにも多い。
ただ単に技術力を磨くコンテストやハッカソンならば、作りたいものを作ればいい。
ただ「自分たちが作りたいから作ること」と「人(赤の他人)が欲しがるものを作ること」は、あまり関係がないことを肝に銘じるべきだ。
仕事に楽しさや充足感を求めることは大切だ。
ただ、それ以上に社会に存在する課題を解決していくことへの充実感、その過程で顧客から喜びのフィードバックをもらうことへの充足感に注目することこそが、スタートアップの健全な姿だ。
スタートアップは、いまだに解決されていない世の中の課題を解決するための最も効率的な一つの「ビークル(乗り物)」である。「個人の楽しみ」以上の存在であることを自覚すべきだ。
Netflixの動画配信サービスは、なぜ人気なのか?
ここで少し考えてみてほしい。なぜ多くの人はNetflixの動画配信サービスを利用するのだろう?
Netflixが膨大なオリジナルコンテンツライブラリを持っているから? 高品質なストリーミング技術を世界中に展開しているからだろうか?
そうではない。Netflixが「自分の抱える課題を解決してくれる(自分の好みに合ったコンテンツと簡単に出合える、自分の余暇を充実させてくれる)」から使うのだ。
通常、カスタマーは自分の抱えている真の課題を認識していないので言語化できない場合が多いし、課題を言語化するのは、カスタマーの仕事ではない。
作り手はカスタマーに徹底的に寄り添って、カスタマーが痛みを感じる課題を本当に持っているか?を確かめないといけない。
むしろ、カスタマーですら言語化できていない潜在的課題を見つけて、それを言語化して課題の構造を整理し、そこに最適な解決策を提供できたスタートアップこそが勝つのだ。
Netflixは、視聴履歴、評価データ、視聴完了率、視聴時間帯などのユーザー行動データをベースに「個人の嗜好に最適化されたコンテンツ」を推薦するレコメンデーションアルゴリズムを作った。
このレコメンデーション機能ができるまでは、動画視聴者にとって「自分の好みに合った次に見るべきコンテンツ」とは何かの定義は曖昧だった。
Netflixはパーソナライズドレコメンデーションという手法を編み出すことで、カスタマー自身さえ気づいていなかった、膨大なコンテンツの中から自分好みの作品を効率的に発見したいという課題を顕在化させたのだ。
「自己中心と怠惰」が
スタートアップ失敗の原因
前回のStartup Genomeのアンケート結果のように、多くのスタートアップは課題の検証をスキップしてしまう。
これほど重要な作業=課題の検証をキップしてしまう原因の一つには、思考のバイアス、つまり思い込みがある。
Y Combinatorの共同創業者、ポール・グレアム氏の言葉を借りると、それは「自己中心と怠惰」によってもたらされる。
「自分が認識している課題は、他の人も同様に認識している課題だろう」と思い込んでしまうと、後々足をすくわれかねない。
(本稿は『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。




