スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます

ピボットしてはいけない、たった一つのものとは?Photo: Adobe Stock

スタートアップのビジョンを決めるのは、創業メンバー

 前回、スタートアップの66%が当初のプランを大幅に変更している、という話をした。

 ただし、ピボットできる対象はあくまでもプロダクトや戦略ビジネスモデルまでである。ビジョンはピボットできないということを肝に銘じてほしい。

 スタートアップ全体の方向性を指し示すビジョンは、後からピボットできないことをファウンダーは当初から強く意識しておくべきである(図表1-4-7)。

 たとえば、クックパッドの掲げるビジョンは「毎日の料理を楽しみにする」。そしてこのビジョン以外のことはやらないと創業者の佐野陽光氏は言い続けた。

 これだけ分かりやすいビジョンなら、組織がスケールした後も社員たちに迷いは出にくいだろう。

 スタートアップのビジョンを決めるのは、やはり創業メンバーである。創業メンバーが早い時期に、一生をかけてもよいと思えるビジョンを見つけることができるか。このことは、スタートアップが成功に近づく重要なポイントになる。

 創業メンバー同士がそれぞれの思いをぶつけ合い、しっかり時間をかけてビジョンをつくり、明文化しておくことをお勧めしたい。

Hard Way to PMF

 スタートアップがプロダクトやサービスでPMFを達成するまでの道のりは、正直、かなり険しい。

 カスタマーが抱える課題の仮説を立て、直接カスタマーと話して課題について学び、カスタマーの本音を知るためのプロダクト(MVP)をリリースし続ける。

 こうしたことを、スタートアップは手元資金が尽きる前に繰り返し行わなければならない。

 特につらいのは、必死に考えたアイデアや苦労して形にしたプロダクトを捨て去ることになった瞬間だ。プロダクトを捨てるときも、100%確信があるわけでなく、開発を続けてもよいのでは、という疑念と戦うことになる。

 尊敬する投資家のベン・ホロウィッツ氏は、著書『HARD THINGS』(日経BP)を通して、スタートアップは“Hard”の連続であり、“hard way”を歩んだものだけが成功すると喝破している。

 逆に言えば、自分が作りたいものを作り、自分の思い込みを正当化する計測だけを行うような「easy way」を選ぶと、箸にも棒にもかからないプロダクトしか作れない“スタートアップもどき”になる運命が待っているということだ。

(本稿は増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。