ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア……。名前は知っていても、地図上で正確な位置を示せる人は意外と少ないのではないでしょうか。東ヨーロッパがわかりにくいのは、国名と国境をバラバラに覚えようとするからです。じつは、ローマ帝国の東西分裂から生まれた「カトリック圏」と「東方正教圏」の境界に注目すると、複雑に見えた地図が一気につながります。世界史と地理を同時に理解できる、大人のためのシンプルな見方を紹介します。

【大人の教養】東ヨーロッパの地図が一気にわかる「1本の境界線」とは?Photo: Adobe Stock

なぜ東ヨーロッパの地図は、こんなにわかりにくいのか?

 ヨーロッパの地理は、わかっているようで意外とわかりにくい。スペイン、フランス、ドイツ、イギリス、イタリアあたりなら、なんとなく位置関係もわかるし、それぞれの国で何が起きたのかも、ある程度は思い浮かべることができます。

 ところが東ヨーロッパになると、急に輪郭がぼやけてくる。ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、クロアティア、スロヴェニア……名前は聞いたことがあっても、地図上で正確に塗り分けられるかと言われると、自信がない人は多いのではないでしょうか。

 これはかなり自然なことだと思います。学校の地理や世界史でも、西ヨーロッパや地中海世界については比較的よく扱われます。イタリアの地中海性気候、フランスの農業、ドイツの工業、イギリスの産業革命といった話は、記憶に残りやすい。一方で、東ヨーロッパについては、どこに何があり、どんな地域なのかを体系的に理解する機会があまりありません。そのため、地図を見ても、どう整理すればいいのかわからなくなってしまうのです。

東ヨーロッパを理解するカギは「ローマ帝国の分裂」にある

 ただ、東ヨーロッパを理解するための入口は、実はとてもシンプルです。まず押さえるべきなのは、ローマ帝国が東西に分裂したという事実です。

 ローマ帝国は、やがて西ローマ帝国と東ローマ帝国に分かれました。西ローマ帝国は早い段階で滅亡しますが、東ローマ帝国はその後も長く残ります。この東ローマ帝国の中心がコンスタンティノポリスです。すると、ヨーロッパのキリスト教世界にも大きな分かれ目が生まれていきます。西側にはローマ教会があり、東側にはコンスタンティノポリスの教会がある。この二つのあいだに、しだいに不協和音が生まれていくのです。

 ここから、ヨーロッパは大きくカトリック圏と東方正教圏に分かれていきます。西側のローマ教会につながる地域はカトリック圏となり、東ローマ帝国の流れをくむ地域はギリシア正教、あるいは東方正教の圏域になっていく。東ヨーロッパがわかりにくいと感じるときは、まずこの宗教的な境界を地図の上に重ねてみると、かなり見通しがよくなります。

国名を暗記せず「宗教の境界線」で地図を見る

 具体的には、ドイツやオーストリアをひとつの軸として見るとわかりやすいと思います。ドイツやオーストリアに近い地域、あるいはそれらと接している地域は、基本的にカトリック圏として捉えることができます。

 たとえばポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、さらに旧ユーゴスラビアの中でもスロヴェニアやクロアティアは、カトリック圏に属する地域として見ることができます。

 一方で、そこからさらに東や南東に目を向けると、ルーマニアやブルガリアのように、東方正教の影響が強い地域が出てきます。つまり、東ヨーロッパをただ国名の暗記として覚えようとするのではなく、「ここまではカトリック圏」「ここから先は東方正教圏」というように、宗教の広がりとして地図を見る。これだけで、かなり整理しやすくなるのです。

 もちろん、東ヨーロッパはそれだけで完全に説明できるわけではありません。のちにオスマン帝国がバルカン半島へ進出してくるため、一部にはイスラムの影響を受けた地域もあります。だから、カトリックと東方正教だけで単純に二分できるわけではない。ただ、大きな見取り図としては、まずカトリック圏と東方正教圏の境界を押さえることが、非常に有効です。

 ヨーロッパの地理が難しく感じられるのは、国名や国境をいきなり覚えようとするからです。ポーランドはどこか、チェコはどこか、スロヴァキアはどこか、ハンガリーはどこかと、現在の国境だけを見ていくと、どうしても知識がバラバラになります。

 けれど、そこに「ローマ帝国の東西分裂」「ローマ教会とコンスタンティノポリスの教会」「カトリック圏と東方正教圏」という歴史の軸を入れると、地図が急に意味を持ちはじめるのです。これは、世界史を地図で見る面白さそのものでもあります。地図は、単なる国の場所を示すものではありません。どの帝国の影響を受けたのか、どの宗教圏に入ったのか、どこで文化の境界が生まれたのかを示してくれるものです。東ヨーロッパも、国名だけを見ているとわかりにくい地域ですが、宗教と帝国の境界線として見直すと、一気に理解しやすくなります。

 だから、ヨーロッパの地理を整理するなら、まず現在の国境から入るのではなく、ローマ帝国の分裂から見る。そして、カトリック圏と東方正教圏の境界を地図の上に置いてみる。これだけで、東ヨーロッパの見え方は大きく変わります。ヨーロッパは、単に西と東に分かれているのではありません。その背後には、帝国の分裂、教会の対立、宗教圏の広がりがある。そこまで見えてくると、ヨーロッパの地理はめちゃくちゃわかりやすくなるのです。

(本稿は『地図で学ぶ「深読み」世界史』著者へのインタビュー記事です)