【大人の教養】なぜスイスは栄え、ロシアは南へ向かったのか? 地図が語る世界史の真実
世界史は、年号や人物名を暗記する科目だと思っていませんか。実は、地図を一枚開くだけで、歴史の見え方は大きく変わります。なぜ山国のスイスがヨーロッパ有数の豊かな国へと発展したのか。なぜロシアは何世紀にもわたって南へ勢力を広げようとしてきたのか。その答えは、地図の中に隠されています。代々木ゼミナール世界史講師・伊藤敏先生が、「地図なしでは理解できない」と語る2つのテーマを通して、点だった知識が線となり、世界史の面白さが一気につながる学び方を紹介します。

【大人の教養】なぜスイスは栄え、ロシアは南へ向かったのか? 地図が語る世界史の真実Photo: Adobe Stock

なぜスイスは栄え、ロシアは南へ向かったのか? 地図が語る世界史の真実

 世界史は、年号や人物名、出来事を覚える科目だと思われがちだ。しかし、代々木ゼミナール講師の伊藤敏先生は、世界史を理解するうえで「地図」は欠かせないものだと言う。

 地図があることで、ただの知識がつながり、出来事の背景が見えてくる。なぜその国が栄えたのか。なぜその地域が争いの舞台になったのか。そうした問いは、文字だけを追っていてもなかなか見えてこない。地図を見ることで初めて、歴史の必然性が浮かび上がってくる。

 では、受験生に世界史を教える中で、伊藤先生が「これは地図がないと理解できない」と最も強く感じているテーマは何なのか。そう尋ねると、伊藤先生は「二つあります」と答えた。

「一つは、やっぱりスイスという国家の勃興ですね」

 スイスと聞くと、多くの人はアルプスの山々を思い浮かべる。山に囲まれた国、ヨーロッパの中心から少し離れた山岳地帯の国。そんなイメージを持つ人も少なくないだろう。しかし、伊藤先生は、そのイメージだけではスイスという国の本質を見誤ると言う。

「僕らのイメージだと、スイスってアルプスの山のど真ん中にある国、というイメージがあると思うんです。でも実はヨーロッパ全体の地図で見ると、ドイツやイタリア、場合によってはフランスや東ヨーロッパをつなぐ、ちょうどど真ん中にあるんですよね」

 地図で見れば、スイスは単なる山岳地帯ではない。ドイツとイタリアを結び、フランスや東ヨーロッパにも通じる、ヨーロッパの交通の要衝に位置している。つまり、人や物が行き交う場所だった。

「交通の中心だから、実は経済的に繁栄しやすいし、国家としての基盤も結構揃っている、ということに気づけるんですよね」

 スイスは、受験世界史の中では決して頻出の大テーマではない。いわゆる本流の単元として、大きく扱われることは多くない。だが、だからこそ地図で理解しているかどうかが差になりやすい。伊藤先生が強調するのは、「スイスだけを覚えてほしい」ということではない。大事なのは、スイスのような地域がなぜ繁栄するのか、その理由を地図から読み取れるようになることだ。

「スイスを理解してほしいというよりは、スイスみたいな地域がなぜ繁栄するのか、ということを視覚的に捉えてほしいんです」

 もう一つ、伊藤先生が「地図で理解してほしい」と語るのが、ロシアの南下政策である。

「やっぱり何と言ってもロシアの南下政策ですね」

 十九世紀から二十世紀にかけて、ロシアは南へ南へと勢力を伸ばそうとしてきた。クリミア戦争、バルカン半島、黒海、中央アジア、そして現在のウクライナ情勢。こうした問題は、地図を抜きにしては理解しにくい。

「十九世紀、二十世紀のロシアの南下政策は、それこそ現在進行形のウクライナ戦争だとか、ああいったところにもつながってきます。なぜロシアはクリミア戦争だとか、東部三州のようなところにこだわるのか、という部分が如実に表れてくるので」

 ロシアは広大な領土を持つ大国である。しかし、北方の海は凍結しやすく、常に使える港を求めるという地理的な課題を抱えてきた。だからこそ、黒海方面、地中海方面、あるいは温暖な海へ出るルートにこだわる。その動きが、南下政策として現れてくる。

 地図で見ると、ロシアがなぜその方向へ進もうとしたのかが見えてくる。なぜクリミアが重要なのか。なぜ黒海沿岸が問題になるのか。なぜウクライナ東部や周辺地域が歴史的にも政治的にも大きな意味を持つのか。そこには、地理が深く関わっている。

「時事問題と絡めるという意味でも、ロシアの南下政策は特に地図で理解してほしいなという思いはすごくありますね」

 地図を見ることで、歴史は単なる暗記から離れていく。スイスは「山の国」ではなく、ヨーロッパの交通の中心として見えてくる。ロシアの南下政策は、ただの用語ではなく、海へ出ようとする国家の地理的な動きとして理解できる。

 地名や出来事を覚えるだけでは、世界史は点の集まりで終わってしまう。しかし、地図を通して見ると、それらの点が線になり、面になっていく。国の位置、山脈、海、交通路、港。その一つひとつが、歴史を動かす条件として立ち上がってくる。

(本稿は『地図で学ぶ「深読み」世界史』著者へのインタビュー記事です)