そして、これら4つのグループそれぞれについて、厳格な治療がどの程度心血管イベントを減らしたかを検証しました。すると、厳格な降圧治療の効果は、人種と生活状況によって大きく違うことが明らかになりました。
人種や生活環境によって
治療効果に差が見られた
まず、黒人においては、同居している人では、厳格な治療を受けると、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが約半分に減っていました。しかし、黒人で一人暮らしの人では、厳格に下げてもほとんど効果が見られなかったのです。
一方で黒人以外(多くは白人)の人たちでは、一人暮らしかどうかにかかわらず、効果が確認されました。
つまり「同じ治療介入」でも、人種や誰と暮らしているかによって効果が異なることが分かったのです。
なぜこのような差が出たのでしょうか。1つの可能性として、「社会的なサポート」の有無があげられます。薬をきちんと飲み続ける、通院を欠かさない、体調の変化に気づく。こうしたことは1人では難しいことがあります。とりわけ社会的に孤立しやすい人では、厳しい治療を続ける負担が大きくなり、効果が十分に発揮されない可能性があるのです。
そして、特に黒人においては、家族とのつながりや情緒的支えが、健康行動を支えるうえでより大きな役割を果たすとされているため、逆にこうしたサポートを得られない場合には、治療の効果が十分に発揮されにくいのではないかと推測されます。
『「もしも」で命は救えるか?因果推論入門』(井上浩輔、光文社)
また、生理的にも、社会的に孤立した状態はストレス反応を強め、血管やホルモンに悪影響を与えることが知られています。つまり、社会的な孤立そのものが、薬の効果を弱めてしまう可能性もあるのです。
この研究は、医学的な治療効果が、「その人の体」だけでなく「生活環境や社会的な支え」によっても左右される可能性を示しました。厳しい治療をすれば必ずしも良い結果につながるわけではなく、周囲の支えがある人にこそ強い効果が期待できる、ということが分かったのです。後の研究で、同様の結果が、血糖コントロールについても示されています。
これは臨床だけでなく、政策にとっても重要な知見です。
高齢化が進み、一人暮らしの人が増える社会で、医療は単に薬や数値を管理するだけでなく、生活のなかでのサポート体制(訪問看護や地域の見守り、家族や友人の支援など)を整える必要があることを示唆します。







