財務省勤務の経験からマクロ金融への知見が深く、スタンフォード大学院への留学などで米国のフィンテック事情にも詳しいブルーモ証券CEOの中村仁氏に、「バブル」化を疑わざるを得ない現在のAI相場と、2000年初頭のドットコムバブルとの違いを3つあげてもらいました。

ブル相場?Photo: Adobe Stock

 現在のAI関連銘柄中心の株式相場は、その急激な株価上昇とテクノロジー銘柄への集中から、2000年初頭に大きな株価下落局面をもたらした「ドットコムバブル」と比較されることが多い。しかし、2026年5月時点の論調では、かつてのドットコムバブルとは本質的に異なると考えられている。その理由として、大きく3つの点が指摘される。

AI革命が実生活を変革し、AGIへの期待が現実味を帯びている

 まず、AI革命はすでに人々の生活に具体的な変化をもたらしている点である。生成AIの代表例であるChatGPTは公開からわずか2か月で月間1億人ものユーザーに到達し、史上最速の普及速度を記録した。他にも高度なAI技術が個人の日常に急速に浸透し、文章作成やプログラミング支援、画像生成などさまざまな場面で活用され始めている。企業もこぞって生成AIを業務効率化やサービス向上に取り入れており、AIはもはや一過性のブームではなく現実のビジネスや生活基盤に組み込まれつつある。

 さらに、将来的なAGI(汎用人工知能)への期待が現在のAI相場を支える背景にある。AGIとは特定分野にとどまらず人間と同等の知能を持つ汎用的な人工知能を指す。現在の生成AIは文章や画像の生成など限定されたタスクで卓越した性能を示すが、AGIが実現すれば経済・社会における生産性は飛躍的に向上し、産業構造も一変し得る。大手テクノロジー企業や研究機関が競ってAGI開発に巨額の投資をおこなっている事実は、この技術が決して絵空事ではなく現実的な将来像として捉えられていることを示している。

 要するにAI分野には長期的な革新余地が大きく、現在の株価上昇にも将来の実需拡大や技術進歩への合理的な期待が織り込まれているのである。

企業業績の堅調な成長が株価を裏付けている

 次に、AI関連企業の業績が実際に大きく伸びており、株価だけが先行して割高になっているわけではない点が挙げられる。事実、2023年以降の米主要企業の決算は好調で、米S&P500指数構成企業のEPS(1株あたり純利益)は指数全体で着実に上昇しており、2024年と2025年は10%超の成長を見せている。特にAIブームの恩恵を受けたハイテク企業は収益が急拡大しており、たとえばエヌビディアは、生成AI需要の爆発を印象付けた2023年5月決算では71億ドルだった四半期売上高が、2025年11月の決算では570億ドルまで拡大している。こうした実利を伴う業績拡大が確認できるからこそ、投資家は将来的な収益期待を株価に反映させているのであり、株価だけが架空の期待先行で暴騰している状況ではない。

 さらに現在のAI相場を牽引しているのは、収益基盤の盤石な巨大テクノロジー企業である点も重要だ。ドットコムバブル期にはアイデアと技術者だけで実態に乏しいベンチャー企業が乱立し、多くが赤字のまま株価だけが吊り上がっていた。それに対していまのAIブームの主役であるマイクロソフト、グーグル、メタなどの企業群は、潤沢なキャッシュフローと安定した本業を持つ。こうした巨大テック企業が突然破綻するリスクは皆無と言ってよく、たとえAI関連事業に過度な期待が先行しても彼らの財務体質が一定の下支えとなっている。

 換言すれば、現在のAI相場は「収益なき成長」に陶酔していたドットコムバブル期とは異なり、堅実な稼ぎを伴う企業によって支えられているのである。

テクノロジー株のバリュエーションはドットコムバブル期と比べれば抑制されている

 第三に、テクノロジー企業の業績(利益)に対する株価の水準(バリュエーション)が、ドットコムバブル期ほど極端に高いわけではないことも挙げられる。確かに2025年時点でS&P500の予想PER(次の12か月後に予想される利益に対する株価の水準)は23倍程度とドットコムバブル期と並ぶ高水準となっている。しかし、欧州の運用会社Robecoの整理では、米国テクノロジー・セクターの予想PERは30.4倍と、過去5年平均(26倍)・10年平均(22.4倍)を上回る水準にある一方、過去のピークと比べれば明確に低い。実際、ドットコムバブルの頂点だった2000年3月の局面では、米国テクノロジー・セクターが58.7倍で取引されていたとされ、現在の倍率は当時の“熱狂の頂点”からは距離がある。

 投資家の楽観が行き過ぎている可能性は常に留意すべきだが、少なくともテクノロジー株については2000年頃のような極端な割高圏ではないという点が主張されている。

 以上の3点が、現在進行中のAI相場は「単なるバブルではない」とされるゆえんである。生活を実際に変える革新的技術であり、それを牽引する企業の業績と財務体質には裏付けがあり、投機的熱狂に起因するバリュエーションの過剰膨張も当時ほどではない。総じていえば、AI相場にはドットコムバブルとは異なる現実の足腰の強さが備わっているのである。

★本記事は書籍『AIバブル後の投資戦略』の一部を抜粋・編集したものです。