日本人が最も好む投資信託、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)<通称オルカン>」。ブルーモ証券CEOの中村仁氏は、日本人が「AIバブル後」という次の時代の投資戦略を考えるためには、「オルカン」の誕生の経緯と実態を知っておくべきと主張します。その詳細を解説する記事の前編です。
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「AIバブル後」という次の時代の投資戦略を考えるうえで、現在の日本の個人投資家にとって最も大きな成功体験である「常に右肩上がりのオルカン」がどうして生まれ、何に依存しているかを紐解いていきたい。
オルカン誕生時点で株価成長は危うい状態だった
日本で「オルカン」投資信託が生まれた2018年末の市場環境は、実は決して楽観一色ではなかった。むしろ当時の投資家は、世界株を牽引してきた米国大型テック企業の成長が、そろそろ成熟期に入るのではないかという不安を抱えていた。
2010年代の株式市場を押し上げてきたのは、スマートフォンの普及、デジタル広告の拡大、EC化、そしてクラウド化という巨大な構造変化だった。アップル、アマゾン、マイクロソフト、グーグル、メタといった企業は、この流れに乗って売上と利益を大きく伸ばし、世界株価指数の上位を占める存在となっていた。
しかし2018~2019年になると、その成長スピードには変化が見え始めていた。スマートフォン普及は一巡し、デジタル広告市場も成熟化し、AWSやAzureのようなクラウド事業も、黎明期の爆発的な伸びから、より大規模で安定的な成長フェーズへ移行しつつあった。
ハイパースケーラー(AWSのアマゾン、Azureのマイクロソフト、Google Cloudのグーグルに代表される、超大規模なデータセンターを全世界で運営し、膨大なクラウドサービスを提供する巨大IT企業のこと)はなお強力な企業群であったが、株価をさらに押し上げるほどの成長加速が続くのかについては、慎重な見方も広がっていたのである。
筆者も2017年から2019年にシリコンバレーのスタンフォード大学経営大学院に留学していたが、そのときのテクノロジー企業の成長に対する見方は楽観と悲観が入り混じったものだったのを覚えている。現在のテクノロジー企業に対する評価は行き過ぎで、株式バブルはいつか崩壊するだろうと当時から言われていた。
その停滞感を一度打ち破ったのが、2020年のコロナショック後に起きたリモートシフトだった。世界中で在宅勤務、オンライン会議、動画配信、EC、クラウド利用が一気に広がり、デジタル化は数年分前倒しで進んだ。企業はクラウドへの移行を急ぎ、消費者はオンラインサービスへの依存を強め、ハイパースケーラーの需要は大きくブーストされた。コロナ禍は社会に深刻な混乱をもたらした一方で、米国大型テック企業にとっては、クラウド、広告、EC、デジタルサービスの利用拡大を加速させる強烈な追い風となったのである。
しかし、この特需は永続するものではなかった。2021年後半から2022年にかけて経済活動が正常化に向かうと、コロナ禍で前倒しされた需要の反動が表れ始めた。企業はクラウド支出を見直し、広告主は景気減速に備えて予算を絞り、ECやPC需要も一巡した。そこへインフレ高進と急速な利上げが重なり、将来の成長期待を高く織り込んでいたハイテク・グロース株は大きく売られた。
つまり2022年末の市場は、単に金利上昇で株価が下がっただけではない。コロナ禍で一時的に上乗せされた成長が剥落し、ハイパースケーラーの次の成長エンジンが再び問われる局面に入っていたのである。2018年末の時点で意識されていた米国大型テック企業の成長鈍化への懸念は、コロナ特需によって一時的に覆い隠されたが、2022年にはその反動と金利上昇によって再び表面化していたのである。
2022年末に利上げで沈んだ市場にOpenAIとChatGPTが現れた
2022年の株式市場は急速な利上げにより大きく調整し、ハイテク・グロース株を中心に冷え込んでいた。米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ抑制のため急ピッチで金利を引き上げ、NASDAQ総合指数は年間で30%以上下落するなどリーマンショック以来の厳しい年となったのである。投資家心理もリスク回避に傾き、年末時点で市場全体が沈滞ムードにあった。
しかし同じ頃、その停滞感を打ち破る革新的なテクノロジーが登場した。2022年11月末、米国の新興AI企業OpenAIが対話型AI「ChatGPT」の公開ベータ版をリリースすると、またたく間に世界的な話題をさらったのである。ChatGPTは公開からわずか2か月で月間1億人ものユーザーに到達し、史上最速で利用者を獲得した消費者向けアプリとなった。その生成AIが紡ぎ出す高度な回答は一般の人々にも強いインパクトを与えた。「AIが人間並みの文章を作り出す」技術進歩を目の当たりにし、多くの人々が驚嘆し興奮したのである。
ChatGPTの社会的インパクトは凄まじく、ビジネスから教育現場までさまざまな分野でAI活用ブームが巻き起こった。メディアは連日この新しいAIの可能性を報じ、一般社会でも「GPT」「生成AI」といった言葉が飛び交うようになった。まさにAI革命の幕開けともいえる状況で、市場の雰囲気も変わり始めた。
OpenAIに巨額出資をするマイクロソフトは2023年1月に追加で数十億ドル規模の投資を発表し、自社の検索エンジンBingへのChatGPT統合やOfficeへのAI機能「Copilot」導入を次々と打ち出した。こうした動きにより、「AIが次の成長エンジンになる」という期待が投資家の間で急速に高まっていったのである。利上げによる逆風下でも、人々の期待を集める新技術が現れれば相場の潮目が変わる――2023年初頭はまさにその典型例となった。
★本記事は書籍『AIバブル後の投資戦略』の一部を抜粋・編集したものです。







