財務省勤務の経験からマクロ金融への知見が深く、スタンフォード大学院への留学などで米国のフィンテック事情にも詳しいブルーモ証券CEOの中村仁氏は、現在の株式相場のAIバブル化を示す兆候をあげながら、「AI革命を信じることと、AIバブルのリスクに備えることは矛盾しない」と説きます。
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インフレと低金利で日本の個人が資産運用に乗り出さないといけないまさにそのとき、グローバルでは株式市場にバブル相場を形成するリスクが生まれている。それが、AIという最先端テクノロジーの発展への期待から株価上昇がバブル化する「AIバブル」のリスクだ。このリスクが本物だとしたら、日本の個人はまさに「内憂外患」状態にあるのだが、その実態はどう評価すればよいのだろうか。
グローバル株式市場に迫る「AIバブル」のリスク
現在のAIトレンド主導での上昇相場を、ただちに「バブル」と断じるのは早計である。生成AIは、かつての投機的テーマとは異なり、すでに私たちの生活や企業活動に入り込み始めている。文章作成、プログラミング、検索、教育、法務、金融、カスタマーサポートなど、AIの利用領域は急速に広がっており、その変化は単なる株式市場の物語ではなく、実体経済の中で起きている技術革新である。
また、現在のAI相場を支えている企業群も、1990年代後半から2000年初頭にかけて、インターネット関連企業の株価が実態を伴わずに世界的に急騰したのちに崩壊したドットコムバブル期の赤字新興企業とは大きく異なる。エヌビディア、マイクロソフト、グーグル(アルファベット)、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)といった企業は、すでに巨大な収益基盤とキャッシュフローを持ち、AI投資の裏側には実際の売上成長も存在する。少なくとも現時点では、株価だけが根拠なく膨らんでいるというより、AIが次の成長エンジンになるという期待と、一定の業績拡大が同時に進んでいる局面と見るべきだろう。テクノロジー株のバリュエーションも高水準ではあるが、過去のドットコムバブル絶頂期ほど極端な水準に達しているわけではない。
したがって、現在のAI相場は「完全なバブル」とはいえない。AI革命そのものは本物であり、長期的には社会の生産性を大きく引き上げる可能性を持っている。しかし、ここで重要なのは、「AI革命が本物であること」と「AI関連株が上がり続けること」は別問題だという点である。技術革新は新しい富を生むが、その富がどの企業の利益となり、どの株主に帰属するかは、競争環境、価格決定力、規制、資本コストによって決まる。AIが社会全体を豊かにしても、その恩恵がすべて現在の大型テック企業に集まるとは限らない。
株式相場のAIバブル化を示すいくつかの兆候
むしろ、足元ではバブル化の兆候も見え始めている。第一に、株式市場の上昇が一部の巨大AI関連企業に極端に依存している。指数全体が上がっているように見えても、その実態はエヌビディアをはじめとする半導体・クラウド大手の株価上昇に支えられている面が大きい。もしこれらの企業の成長期待が揺らげば、指数全体が大きな調整を受けるリスクがある。
第二に、AIインフラ投資の規模が急速に膨らんでいる。データセンター、GPU、電力、ネットワークへの投資は巨額化しており、その投資に見合う収益が本当に生まれるかはまだ証明されていない。かつてのドットコムバブル期にも、将来のインターネット需要を見込んで光ファイバー網への過剰投資が進んだが、需要の立ち上がりは想定より遅れ、多くの通信企業が破綻した。今回も、AI需要が期待ほど伸びなければ、巨額の設備投資は減価償却負担となって企業利益を圧迫する。
第三に、AI相場の裏側で金融スキームが複雑化している。AI企業への出資、GPU購入契約、クラウド契約、データセンター投資が相互に絡み合い、資金が循環する構造が生まれつつある。さらに、データセンター投資の一部をSPVやプライベートクレジットに移すようなオフバランス化の動きも見られる(これらの詳細は第1章で解説する)。
こうした仕組みは平時には資本効率を高めるが、需要が下振れしたときには、誰が最終的なリスクを負っているのかが見えにくくなる。これは過去の金融危機でも繰り返し見られた危うい兆候である。
AIバブル化の核心とこれからの投資戦略
特に注意すべきは、OpenAIのような象徴的企業への信用である。OpenAIは生成AIブームの中心にあり、その成長期待はクラウド企業、半導体企業、データセンター企業の投資計画を正当化してきた。もし同社の収益化や資金調達に疑念が生じれば、AI需要全体への期待が見直され、関連企業の株価や設備投資計画に連鎖的な影響が及ぶ可能性がある。AI技術そのものが消えるわけではないが、市場が織り込んできた成長速度と利益率の前提は、一気に書き換えられかねない。
このリスクは米国市場だけにとどまらない。AIインフラを支える半導体、メモリ、製造装置、素材、光通信部品の多くは、日本、台湾、韓国を含む東アジアの産業基盤と深く結びついている。日本でも、半導体関連企業やソフトバンクグループを通じて、AI相場の変動は日経平均株価や個人投資家の資産形成に波及し得る。
AIバブルの火種は、もはや米国テック株だけの問題ではなく、東アジアの工場、地域経済、年金、NISA口座にまで入り込み始めている。
結局のところ、現状を「AIバブル」と決めつける必要はない。しかし、「バブルではない」と安心し切ることもまた危険である。AI革命は本物であり、その長期的な価値は大きい。だが、本物の技術革新の周囲にこそ、過剰な期待、過剰な投資、過剰な金融レバレッジは生まれやすい。投資家に求められるのは、AIを否定することではなく、AIへの熱狂がどこまで実需に支えられ、どこから信用と期待の自己増殖になっているのかを見極める姿勢である。
いま必要なのは、強気相場から降りることではなく、強気相場が永遠に続くという前提を捨てることだ。AI相場はまだバブルとはいえない。しかし、バブル化するための条件は少しずつ整い始めている。だからこそ、投資家は上昇の恩恵を享受しながらも、ポートフォリオの偏りを点検し、過度なテック株依存を避け、次の調整局面に備える必要がある。AI革命を信じることと、AIバブルのリスクに備えることは矛盾しない。むしろ、その両方を同時に考えることこそが、これからの投資戦略の出発点なのである。
★本記事は書籍『AIバブル後の投資戦略』の一部を抜粋・編集したものです。







