「人を育てる」とはどういうことか。コンサルタントとして1万人以上のビジネスパーソンと向き合ってきた安達裕哉氏(『頭のいい人が話す前に考えていること』)が、いま最も知りたいと語るスキルがある。「ほめる」ことだ。評価を下すのではなく、相手を伸ばす――その道を極めたのが、手書きのメッセージで全国の小学生を励まし続けてきた進研ゼミの「赤ペン先生」である。本連載では、赤ペン先生の全国代表を務める佐村俊恵氏(『57年間、9200万人の子どもを励まし続けた赤ペン先生のほめ方』)を安達氏が訪ね、その「ほめ方」の極意をひもといていく。
(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)

「爆発的に成長する人」の共通点・ベスト1Photo: Adobe Stock

赤ペン先生が最も大切にしている「評価軸」とは

安達裕哉(以下、安達) 前回は、赤ペン先生が掲げる「ほめ方の原則」の一つ目、「結果ではなく過程をほめる」についてうかがいました。白紙の答案でも、自分から提出するという行動自体に価値があるし、漢字の線が一本多くても、部首がしっかり書けていれば、それもまた頑張りの証しである――ほめるところは「過程」をよく見れば必ずある、というお話でしたね。

佐村俊恵(以下、佐村) そうですね。

安達 ただ、お話を聞きながら難しいなと感じたのは、「では、過程のどこを見ればいいのか」という点なんです。漠然と眺めているだけでは、ほめどころは見つからない気もして。そこにつながるのが、二つ目の原則ということでしょうか。

佐村 まさにそうなんです。二つ目は「何歳になっても学びの丁寧さをほめる」ということですね。過程のどこを見るかと言えば、まずこの「丁寧さ」。赤ペン先生が最も大切にしている評価軸と言ってもいいかもしれません。

安達 丁寧さというと、具体的にはどういうところを見ていらっしゃるんですか。

佐村 たとえば算数で、計算の過程をきちんとメモして残しているとか、筆算で繰り上がりの数字をきちんと書き添えているとか。

安達 左上に少し小さめに書き込む、というあれですね。

佐村 そうです。あるいは筆算で定規を使って線を引いているとか。こうして丁寧に計算に取り組むお子さんは、ほとんど間違いがないんです。過言ではなく、丁寧さこそが学びの土台だと考えています。

安達 なるほど。

佐村 国語の問題文を読むにしても、大切なところに線を引きながら読んでいる子は、ただぞんざいに読んでいるのではなく、自分の頭の中で大事な部分とそうでない部分を切り分けて、考えながら読んでいる。だから、答案からそういう痕跡が見つかったときは、大いにほめますね。

安達 前回の「過程をほめる」と地続きの話ですね。過程をまず見る、そのうえで、過程のどこに丁寧さ・緻密さが表れているかを探しにいく。

佐村 そうなんです。丁寧に取り組めば力がつく――これは私たちが長年やってきて分かったことなので、本当に大切にして認めていきたい部分ですね。

細部にこだわる人は、子どもも大人も伸びる

安達 いまのお話は、私もすごく思い当たります。

前に在籍していたコンサルティング会社で新人を指導していたとき、当然、新人の作る成果品はベテランから見れば稚拙なものが多いのですが、その中にも「ここはちゃんと調べているな」とか、「キャッチフレーズがちゃんと練られているな」といった痕跡が見つかるんですよ。

特に言葉の使い方ですね。たとえば、ここで「目的」という言葉を使うべきか、それとも「目標」のほうがいいのか――そういう細部にこだわる新人は、すごく伸びるんです。

佐村 なるほど。

安達 そういう新人は、×を出しても「じゃあ次は間違えません」と学んでいく。要するに、追求する姿勢のある人なんですよね。細部を丁寧に詰める人は伸びると現場でも感じていたので、佐村さんがそこを見ていらっしゃるというのは、ものすごくイメージが湧きます。

佐村 いまのお話をうかがって思ったんですけれど、そうやって細部を見てくれていることは、相手にも伝わるんですよね。子ども・大人を問わず、自分のことをしっかり見て考えてくれる人、自分の努力をちゃんと認めてくれる人には信頼を置く。そして、その人に喜んでほしいという思いで頑張る。だから、その新人の方もしっかり成長できたのだと思いますね。

「もっと丁寧に」と言われて丁寧にできる子はいない

安達 逆に、勉強をイヤイヤやりながら、雑な字で書いてくる子もいますよね。そういうときは、どうコメントを残されるんですか。「丁寧に書きなさい」とか……。

佐村 「丁寧に書こう」とは、絶対に書かないんです。

安達 書かない?

佐村 「丁寧に書こう」「きれいに書き直しましょう」といった言葉は、どうしてもやる気を損ねますよね。

安達 まあ、そうですよね。「おまえの字は汚いから、やり直せ」と聞こえてしまう。

佐村 そうなんです。それに、本人の中では、すでに丁寧に取り組んだつもりかもしれない。なのに「丁寧に」と言われても「これ以上どうすればいいの?」と思いますよね。

安達 では、どう言い換えるんですか。

佐村 「ゆっくり書こうね」とか。慌てて書かなくていい、焦らなくてもいいから、はねやとめも意識して書いてみようね……というニュアンスですね。どう取り組んだらいいかという、具体的な行動に置き換えてあげることが大事だと思います。

安達 いまのお話で思い出したことがあります。昔、私が在籍していた会社で、管理職研修のテキストに、テニスのコーチのエピソードが引用されていたんです。いいテニスのコーチは、「ボールをしっかりよく見て」とは言わない、と。ではどう言うかというと「ボールはどんなふうに回転している?」と聞くらしいんですよ。

佐村 なるほどね。

安達 「よく見て」では、何をどう見ればいいのかはっきりしない。でも「どんな回転をしている?」と問えば、回転を見るために自然とボールをよく見るようになる。さっきの「ゆっくり書こう」とまったく同じで、抽象的な指示ではなく、何をすべきかを具体的に指示する。この声かけがすごく重要だ、ということですよね。

佐村 本当にそう思います。答案の例で言うと、文章題で計算式はよくできているのに、答えの単位を書き忘れる子が多いんですが、これも「問題文をしっかり読もう」ではなくて、「ここを見よう」「ここに注目しよう」と、具体的なところに目を向けるよう指導すると改善しますね。

安達 丁寧さは伸びる子の土台。でも、その丁寧さは「丁寧にやろう」では引き出せない。引き出すのは、具体的で、行動に落ちた声かけのほうだということですね。