「最悪の事態を想定しておかなければならない」という発言にせよ、「現実はそんなに甘くない」という発言にせよ、間違っているわけではない。表向きは「正しいこと」を言っているように聞こえ、いわゆる“正論”を吐いているわけだが、このような“正論”こそ要注意である。

 ちょっとした冗談や何気ない会話に対して、「それは不謹慎だよ」「社会的には許されない」などと過剰に目くじらを立て、“正論”を吐く人と同様の危うさを秘めている。

正論を吐く人が秘める
「ルサンチマン」とは?

 ドイツの哲学者、ニーチェは「正義の起源がルサンチマンにある」(ニーチェ『道徳の系譜学』光文社古典新訳文庫)と指摘している。「ルサンチマン」とはフランス語で「恨み」を意味する言葉で、非常にドロドロとした陰湿な感情を指す。正義を振りかざし、反論の余地がなさそうな、もっともらしい“正論”を吐く人は、その胸中に「ルサンチマン」を秘めていることが多く、「復讐を正義という美名で聖なるものにしようとしているのだ」(同書)。

 先ほど紹介した男性も「ルサンチマン」を抱えている可能性が高い。というのも、若い頃はすごい「頑張り屋」で、同期の出世頭になるのではないかと期待されていたことが、同期の女性社員の話から判明したからだ。実際、課長の一歩手前のポジションまで昇進したのは、この男性が同期のなかで一番早かった。ところが、直属の上司と反りが合わなかったこともあって、課長になれないまま年を取ったらしい。

 こうした経緯があったからか、別の男性社員が同期で最初に課長に昇進した際、せっかくの昇進に水を差すような言葉を吐いたうえ、「管理職になったことをきっかけにうつになる『昇進うつ』というのがあるそうだから、気をつけないと」と心配そうな素振りも見せたという。

 この発言も間違っているわけではない。たしかに「昇進うつ」には気をつけなければならず、ある意味では“正論”だ。だが、だからといって課長に昇進したばかりの同期に、その危険性をわざわざ指摘したのは、動揺させようとするもくろみがあったからだろう。実際、同期の男性は、課長昇進直後の面談の際、「『昇進うつ』というのがあるそうですね。僕もそういうのになるんでしょうか」と不安げな面持ちで私に質問した。