出社回帰を選択する経営側の論理
本当の敵は「社員の不公平感」か?

 ちなみに弊社のクライアント、あるいは私のメディア活動の関係者で、この5年間で弊社に足を運んでいただいた方はいないと思う。私がクライアントのオフィスにお邪魔することはあるが、その他は基本的にはオンライン打ち合わせだ。弊社オフィスは留守番電話を廃止して、メールかチャットツールにした。私自身出張が多いこともあり、ほとんどオフィスにはいない。

 こう書くと私がフルリモート賛成派で、出社回帰反対派と思われるかもしれない。しかし、そう単純な話ではない。やはり対面のほうが意思決定は早いと思うし、創発的なアイデアも出てくるだろう。電話のほうが顧客とのコミュニケーションが増え、収益も上がるかもとすら思っている。

 ただ、物事には何でもメリットとデメリットがあり、両方を天秤にかけた上で選択している。だから結局は、何を選択するか、というシンプルな問題ではないだろうか。

 完全なフルリモートは、オフィス勤務と比較して生産性が低下するという調査研究は、世界中でいくつも発表されている。調査研究によって幅はあるが、中には20%は低下すると結論付けているものもある。そうでなくても、世の経営者は肌感覚として、フルリモートに何らかのデメリットを感じるから週に数日、あるいは完全出社回帰を進めるのだ。

 なお、出社と在宅勤務を組み合わせる「ハイブリッドワーク」については、完全出社と比較して生産性に悪影響を及ぼさないとする風潮がある。ただ、その場合は別の問題が発生する。出社している社員と、していない社員の不公平感だ。

 出社している社員は、電話応対、突然の来客応対、物理的な郵便物の受け取り、機器のメンテナンスなどを担う必要がある、出社していない社員は、それらの雑務をやらなくていい。こうした格差が、不満につながるというのだ。

 さらに出社社員側は、出社しない社員に対して「絶対にちょっとくらいサボっているはず」などと疑念(というか確信)を抱くという。これも、フル出社に戻す経営側の理由になる。むしろタイピング数がどうとか生産性うんぬんの話よりも、ずっと合理性がありそうだ。社員の間に分断が生まれては、組織として良いことなどひとつもないからだ。

 出社回帰のデメリットを挙げるなら、出社回帰を嫌う社員の人材流出は大いにあり得る。中でも市場価値の高い人材ほど転職はしやすく、出社を義務付けていないライバル企業に移ってしまう可能性もあるだろう。「全員が一緒」を押し出すので、企業の多様性にも逆風となったり、女性の離職率が高まったりするかもしれない。