ビジネス現場で、「土壇場でもすぐ動ける人」と「土壇場になると動けない人」。その差はどこにあるのか?
「ネロ・ブック・アワード」の金賞を受賞した世界的ベストセラー『極限の漂流118日間』をもとに、両者の違いについて、ライターの照宮遼子氏がレポートする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

極限状態でもすぐ動ける人Photo: Adobe Stock

準備の最後に残る不安

 何かを始める前は、準備をしている時間のほうが気持ちはラクだ。
 やることが決まっていれば、そこに集中できる。ひとつ終わるたびに、少しずつ気持ちも落ち着いていく。

 でも、準備が終わりに近づくと、それまで考えずにいた不安がニョキニョキ出てくることがある。

 できるだけのことはした。それでも、予想していなかったことが起きたらどうするのか。決めていたやり方が通用しなくなったとき、自分はちゃんと動けるのだろうか。

 どれだけ準備を重ねても、想定外の場面で自分がどう動けるかは、実際にそのときが来るまでわからない。そんな不安に、人はどう向き合えばいいのだろう。

極限状態でもすぐ動ける人は何が違う?

 アドレナリン全開の航海アドベンチャーとラブストーリーが融合したとてつもない実話『極限の漂流118日間』(ソフィー・エルムハースト著/村井章子訳)には、遭難後の極限状態だけでなく、海へ出る前のモーリスの不安も書かれている。

「よい船乗り」という、この捉えどころのない大切な資質を身につけるにはどうすればいいのか。経験を通じて身につけるしかない。(中略)
何をすべきか、それをどうやってすべきか、瞬時に決めなければならない。
跳躍しながらポジションを変えるダンサーのように、直感に従って電光石火で行動することが要求される。

――『極限の漂流118日間』より

 夫のモーリスは、航海に向けて念入りに準備していた。
 船を整えるだけでなく、プランクトンの抽出法や、生魚から水を搾る方法まで調べている。それでも、自分が「よい船乗り」になれるのかという不安は残った。

 ここで見えてくるのは、知識があることと、実際に動けることの違いだ。
 正しい方法を知っていても、疲れや恐怖の中で判断できるとは限らない。想定外に向き合う力は、実際に迷いながら動いた経験の中で育っていくものなのかもしれない。

動き出す前の迷いに意味を与えてくれる

 人生を変えるとき、最初から迷いなく進める人は少ない。真剣に考えているからこそ、簡単には心が決まらないこともある。

 迷っている時間は、何も進んでいないように見える。でも、すぐに答えを出せないからといって、覚悟が足りないわけではない。これから先を真剣に考えるほど、すぐには答えを出せないこともある。

 本書は、大きな選択の前で迷う自分を、弱いと決めつけなくていいと思わせてくれる。
 動き出す前の時間を無駄な遠回りではなく、納得して次へ進むための時間として考えさせてくれる一冊である。