ビジネス現場で想定外のトラブルに遭遇したとき、「頭が真っ白になる人」と「頭が真っ白にならない人」がいる。その差は一体どこからくるのか?
ニューヨーク・タイムズ「The 10 Best Books of 2025」。バラク・オバマ「2025年のお気に入り本」。「ネロ・ブック・アワード」金賞受賞。山口周氏が「決して寝る前に読み始めないこと。一度ページをめくってしまうと止めるのは不可能です」と絶賛している世界的ベストセラー『極限の漂流118日間』をもとに、両者の違いについて、ライターの照宮遼子氏に寄稿いただいた。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

想定外のトラブルでも「頭が真っ白」にならない人Photo: Adobe Stock

信じていた未来が崩れていくとき

 人生には、「もう前には戻れない」と悟る瞬間がある。
 続くと思っていた仕事が終わる。大切にしていた関係が、前と同じ形では続かなくなる。時間をかけて積み上げてきたものが、自分の手ではもう守れないとわかる。

 そういう瞬間は、ある日突然やってくる。
 準備する時間も、気持ちを整える余裕もないまま、信じていた未来が目の前で崩れていく。そんなとき、人は冷静に動けるのだろうか。

想定外のトラブルでも「頭が真っ白」にならない人の特徴

 1973年、太平洋を航海中のヨットがマッコウクジラに衝突。沈没・遭難する。
 そこから118日間を生き延びた夫妻の実話を描いたノンフィクション『極限の漂流118日間』(ソフィー・エルムハースト著、村井章子訳)には、事故直後のふたりの様子が記されている。

ふたりは押し黙って急いで行動した。水位が上がるにつれて奇妙なほど冷静になる。
浸水する船の中でものをかき集めるのはひどくむずかしかったが、なんとか10分でできる限りのものを持ち出す。そしてふたりはヨットからボートに乗り移った。

──『極限の漂流118日間』より

 普通なら、叫び、取り乱し、何もできなくなっても不思議ではない。
 けれどふたりは、恐怖にのみこまれる前に、目の前の作業へ向かっている。

 この場面をより象徴的にしているのが、沈み始めたヨットを写真に残す描写である。
 写真など撮っている場合ではないはずだ。だが、自分たちの夢が沈んでいく瞬間を、目をそらさずに見届ける――そこには、絶望の中でも現実から目をそらさない強さが感じられた。

次の一歩を探すために

 沈んでいくのは、ヨットだけではない。ふたりが思い描いていた未来もまた失われていく。だからこそ、この場面は単なる遭難の描写ではなく、人生で大切なものを失ったときの感覚にも重なってくる。

 何かを失った後、人はすぐに前を向けるわけではない。けれど、立ち止まったままではいられない瞬間がある。そこからどう動くかで、その先の時間は少しずつ変わっていく。

 本書は、極限のサバイバルを描きながら、人生が思いどおりにいかなくなったとき、それでもどう生きていくのかを考えさせられた。