漫画家・かっぴー氏の著書『天才になれなかった全ての人へ 自分だけの武器が見つかる才能論』の刊行を記念し、映画監督/脚本家で著書『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』を上梓した長久允氏との対談イベントが、代官山蔦屋書店で開催されました。「才能の教室」と題して繰り広げられたイベントの模様を、全4回でお届けします。(文/大西志帆)

「経験」はあなただけのカードになる
かっぴー:だから、次の「自分に才能があるのかわからなくて不安です」っていう質問に対しても、「あるよ」っていう。
長久允(以下、長久):うん。例えば僕のフィールドで言うと、アイス屋さんを舞台にした物語を書きたいと思っても、自分はアイス屋さんで働いてないから、店員さんが「本当に思っていること」は書けない。やっぱり、実際に経験した人が書いた方が絶対にリアリティがあっておもしろいものが書けるし、その点においては、全員に同様のカードがあるわけで。だから、おもしろいものを書けることを才能というなら、才能がある。全員おもしろい。そういう観点で僕は本当にそう思う。
かっぴー:うん、同感です。自分も本の中で「自分のベテランになる」と表現してて。自分らしさとか他の人との違いとかをちゃんと自覚して、「このカードの組み合わせは俺にしか持ってないものだ」って自覚してからが勝負だと思ってるから、すごい共通してる。
長久:そうですよね。
自分が得たカードを、まず「確認」する
長久:ちょっとちょっと、かっぴーさんの「カード理論」教えてよ。
かっぴー:人はいろんなカードを持ってて、それをフェアに見るんですよね。例えばよく、コネがあることを「コネだ」とか揶揄するけど、コネも立派なカードだし、あとシンプルに顔がいいとかもそれは才能だし。それをとにかく全部、机の上に並べるんですね。で、それらは大抵裏表があって、例えば「愛嬌がある」は裏返すと「舐められやすい」とか。「コネがある」っていうのだと「人間関係のしがらみがある」とか。
長久:うんうん。
かっぴー:で、全部使わなくてもいい。これとこれとこれは漫画家としてすごい強みだなっていうものがあったとしたら、それを意識してスキルセットしていく。だからそうやって使える使えないは一旦置いといて、全部洗い出すっていうのが「カード理論」です。
長久:なるほど~! 自分が得たカードが何なのかを確認し使っていくっていうことですよね。たとえば、フランス語が喋れる、踊れる、足が長いとかわかんないけど、そこまで組み合わせると、あ、それは少ないよねってなる。そうやって3枚、4枚、5枚ってなってくると、さすがに日本だとあなたしかいないとか、そうなってくるよね。
かっぴー:うん。だから掛け算で自分の希少性を意識していくっていう感じですね。
カードを磨いて「キラカード」に
長久:それで言うとさ、『左ききのエレン』を読んでても思うんですけど、かっぴーさんが得た「広告代理店の仕事をし、挫折を経験した」っていうのがもうキラカードになってるなってすごい感じる。
かっぴー:そうですね。やっぱり代理店時代、中高生ぐらいから含めたら10年ぐらいずっとうだつが上がらなくて、クリエイターになりたい、なんか作る人になりたい、取材とかされたい、代官山蔦屋でトークイベントやりたいってずっと思ってたんですけど、そういう熟成期間があったから、こういうタイトルの本を出せたなって。
長久:経験というカードってやっぱり大きいですよね。
かっぴー:僕、とにかくネームが早いんですよ。他の漫画家さんとかだと、まあ大抵2、3日なんですよね。僕はそれが1日。
長久:すごいですね。早。
かっぴー:めっちゃ早いと思う、たぶん。ビビると思う。そこは本当に自信持って言えるしそのカードに関しては本当に超極レアなんだけど、でもそれは磨いてきたカードなんで。もともとはそこまでじゃなかったかもしれないけど、意識して磨いてきた結果、一番自信持って出せるカードになった。
人生は全部カードになる
かっぴー:ちなみに長久さんのカードは何ですか?
長久:それで言うと僕、音楽がすごい好きなんです。本当は音楽で食っていきたいと20歳までは思っていて。だけどそれも今思えば計算が弱いというか、ただただ練習して血が出るまで練習していたっていうに過ぎないという、超不器用なやり方。でも映画監督になった今、すごくそれが役立ってて。僕、音とかで映画の設計をしていくんですよ。
かっぴー:本に書いてある作り方を見て、ちょっとびっくりしました。エンディングテーマから考えるとか。
長久:そう、エンディングテーマから考えるし、セリフとか効果音とか、ここにどういうトラックがかかってて、どういうセリフを言ってるかみたいなことをイメージしながら脚本を書くんですけど、それができるのは音楽にめちゃくちゃ踏み込んだ6年間ぐらいがあるっていうカードになってるなって。
かっぴー:確かにそうですね。
長久:あとは代理店時代、スーパーの店頭ビデオをめちゃくちゃ作ってたんですよ。ステーキが焼ける様をどうお客さんが立ち止まるように撮っていくか、みたいなことを考えて、年間100本ぐらい納品して。だから映像を作っていく筋力みたいなのは、すごいついてると思ってます。
かっぴー:確かに、僕もやっぱ代理店の時代の経験はなんかどっかで生きてんだろうなとは思います。うん。
長久:だから本当に遠回りとかはないと思う、人生っていうのはね。全部カードになるから。


