世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”出口治明元APU学長。宮部みゆき氏などから絶賛されている出口氏の『哲学と宗教全史』をもとに、哲学と宗教の視点から見る「モノに囲まれる人と、豊かに暮らす人の決定的な差」とは? ライターの照宮遼子氏がレポートする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

【哲学と宗教】モノに囲まれる人と、豊かに暮らす人の決定的な差Photo: Adobe Stock

増え続ける「モノ」と減っていく「余裕」

 クローゼットはパンパンなのに、着る服がない。
 気づけば身の回りには、使っていないモノが増えている。
 買った瞬間は気分が上がっても、その後は存在すら忘れてしまうことがある。
 モノが増えるほど、置き場所に困り、片付ける手間も増えていく。
 そんな経験をしたことがある人は少なくないだろう。

 豊かになるために手に入れたはずのモノが、いつの間にか暮らしを重くしている。
 モノに囲まれるほど、私たちの暮らしは本当の意味で豊かになっているのだろうか。

必要なものを見極める「墨子」の教えとは?

 持つことと暮らしの豊かさの関係を考えるとき、手がかりになるのが、中国の思想家・墨子(BC470頃~BC390頃)の節約思想である。

『哲学と宗教全史』(出口治明著)には、墨子の思想について次のように書かれている。

国を治めるためには、財貨は合理的に無駄なく使用すべきである。(中略)
墨子は政治においても生活上の習慣においても、実利と実用が伴うことが大切であると説きました。節約の思想です。
――『哲学と宗教全史』より

 墨子は、見栄や慣習のために財貨や労力を費やすことをよしとしなかった。
 衣服や道具についても、大切なのは、立派に見えることではなく、本来の役目を果たしているかどうかである。
 モノは人の暮らしを支えるためにあるのであって、飾り立てることで人を疲れさせるためにあるわけではない。

 その意味で、墨子の節約は、ただ切り詰めることではない。
 何かを多く持つことより、人が無理なく暮らせる状態を守るための考え方だった。
 本来、人のためにあるモノが人を苦しめ始めたとき、そこにはすでに無駄が生まれている。

豊かさの意味を考えさせられた!

 墨子が生きた春秋戦国時代は、国同士の争いが絶えず、人々の暮らしも安定しなかった。
 華やかな形式より、食べること、働くこと、生き延びることのほうが切実だった。

 現代は、モノに囲まれて暮らす時代である。
 だからこそ、豊かさは持ち物の量だけでは測れない。
 限られたお金や時間を何に使うのかに、その人の暮らし方が表れる。

 本書は、思想家の名前や用語を知るためだけの本ではない。
 遠い時代の考え方に触れることで、当たり前だと思っていた暮らしや価値観の見え方が変わっていく。豊かさとは何かを、改めて考えさせられた一冊だった。