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テクノロジーが発展し、誰もが手軽に便利なツールを使えるようになった。一見、人間の暮らしはどんどん良くなっている。しかしこの進化の速度は、人類本来のリズムをはるかに超えているという。便利すぎる道具が溢れる社会に、筆者が感じる強い危機感とは?※本稿は、進化生物学者の長谷川眞理子『美しく残酷なヒトの本性 遺伝子、言語、自意識の謎に迫る』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。
西洋の良いところだけを
取り入れた鎖国中の日本
2023年2月初め、久し振りにタンザニアを訪れた。JICA(編集部注/独立行政法人国際協力機構)の事業の1つで、日本の近代化の経験を途上国と共有する、JICAチェアという試みに参加したのである。
この事業は、非西欧社会の1つである日本という国が、なぜ、どのようにして近代化を果たし、西欧に伍する世界的地位を築けたのかを知り、その経験から、現在の途上国が何か得るものはないかを探る、というものだ。
日本は、江戸時代には「鎖国」政策を採ってきた。その背景には、キリスト教の布教に伴って西欧に支配されることを阻むという大きな目標があった。
しかし、完全に西欧からの情報を遮断していたわけではなく、キリスト教の教義と直接に関わらない情報は取り入れてきた。18、19世紀の西欧の近代科学の形成に伴う大きな思想的変革も、江戸時代の学者たちは、かなりリアルタイムで見てきたようである。
さらに、日本には古くからの優れた技術があった。手先の器用さに加えて、より優れたものに対する希求というか、日本には、すでにある技術をどのようにしてもっと良いものにするかを絶えず考える伝統があった。







