赤ちゃんにミルクを与える両親写真はイメージです Photo:PIXTA

児童手当の拡充や保育所整備、大学授業料の減免など、政府は巨額の「こども予算」を投じてきた。ところが、その予算が出生率をどれだけ押し上げるのかは示されていない。既存研究と内閣府の推計をもとに、少子化対策の費用対効果を検証する。※本稿は、名古屋商科大学ビジネススクール教授の原田 泰編著、駒澤大学経済学部准教授の井上智洋編著、上智大学経済学部准教授の中里 透編著『政府支出を考える』(金融財政事情研究会)のうち、東京電機大学名誉教授の阿部一知氏による執筆パートの一部を抜粋・編集したものです。

これ以上保育所を整備しても
出生率は向上しない?

 2025年6月に公表された人口動態統計では、2024年の出生数と合計特殊出生率は過去最低水準を更新した。

 出生率に影響する要因はきわめて多様である。伝統的な研究では、1970年代の米国の実証研究のレファレンス(たとえば、注1)は、子どもの数と子どもの質を両親の効用を伴う消費財ととらえる(開発経済学で子どもを投資財としてとらえるのと対照的)。

 実証的な分析では、データはやや古いが、阿部一知、原田泰(注2)が市区町村ベースの合計特殊出生率を、Willisのモデルにのっとって、所得と各種の子育て費用で推計した。

 得られた結果は、所得の高さ、女性の時間費用(女性賃金)の高さ、地価で表す住宅費の高さ、教育への志向の高さ、保育環境の未整備は、すべて当該市区町村の合計特殊出生率に負の効果がある。

 ただし、所得に係る負の係数は、小さめになっている。2008年当時議論になっていた児童手当は、効果が小さい。むしろ保育所の整備が同一の財政支出で4倍程度の効果がある。宇南山卓(注3)も、2022年以前の保育所整備は生涯未婚率を引き下げ、合計特殊出生率を0.1引き上げる効果があったとする。

 しかし、その後は保育所整備が進み、2020年までには待機児童数は8割以上の自治体でゼロになり、全国的にみても史上最低を更新しつつあるなど、今後は、保育所の整備が少子化対策として機能するとは考えにくいとする。

 つまり、今後は保育所整備の予算追加の、出生率向上への効果は見込めないということとなる。

 2010年以降のサーベイとしては、経済社会総合研究所における姉崎猛ほか(注4)と相川哲也ほか(注5)が詳しい。

 どちらの研究も、「育児休業と出生率との関係、女性就業率・就業継続と出生率の関係」「保育サービスと出生率との関係」「経済的支援と出生率との関係」「夫の家事・育児参加と出生率との関係」という「一定程度政策的にコントロール可能な」4つのトピックに焦点を当て実証論文をサーベイしている。

「こども予算」は出生率を
どれだけ押し上げるのか

 こうしたサーベイにより出生率に比較的明確に影響があると推測される政策的な要因を、上記の伝統的なフレームワークで再整理すると、以下のように二分される。

注1 Willis,R.J. “A New Approach to the Economic Theory of Fertility Behavior,” Journal of Political Economy 81- 2 part 2. pp.S14-S64、1973年

注2 「子育て支援策の出生率に与える影響:市区町村データの分析」会計検査研究第38号、2008年

注3 「保育所の整備が出生率に与える影響」RIETI Discussion Paper Series 23-J-030、経済産業研究所、2023年

注4 「少子化の動向と出生率に関する研究サーベイ」ESRI Research Note No17. 内閣府経済社会総合研究所、2011年

注5 「少子化対策と出生率に関する研究のサーベイ」ESRI Research Note No66. 内閣府経済社会総合研究所、2022年