習近平の頭の中には、おおむね次のような図式がある。

・米国の国力はすでに相対的な「下降気流」に入りつつある。
・一方、中国は「上昇気流」の中にあり、長期的には国力の差は縮まり、逆転する。
・上昇気流と下降気流がぶつかれば、必然的に乱気流(摩擦)が生じる。
・しかし時間が経てば、上昇気流にある中国の方が、いずれ上に出る。

 ここでも、「時間は中国に味方する」という発想が前提になっている。

習近平が見据える「3年間」は
何のための時間なのか

 一方で、中国はきわめて現実的であり、現時点での総合国力では、今なお中国は米国に及ばないことも認めている。したがって、更なる発展のためには当面の安定を確保する“踊り場”が必要である。この現実認識から、習近平の対米戦略は「長期的な戦略的闘争」と「短期的な戦術的安定」という二段構えになっている。

★長期的な戦略的闘争――“主要矛盾”である米国との「戦略的闘争」を避けられないものとして受け止め、技術・軍事・外交・規範形成など、あらゆる分野で主導権争いを展開する。

★短期的な戦術的安定――米国との全面対立は避け、対話や首脳会談を通じて「戦術的安定」を演出し、時間を稼ぐ。その間に国力と技術力を高め、将来の対立局面に備える。

 2026年5月のトランプ大統領訪中時に、習近平が「戦略的安定」を強調したのは、まさにこのためである。中国の戦略論から見れば、それは米国との長期的競争を放棄するものではなく、中国がさらに力を蓄えるための「戦略的観点から見た戦術的安定」である。実際、中国側はこの枠組みを「今後3年間、さらにはそれ以上」の米中関係の指針と位置づけており、トランプ政権の残り任期を視野に入れた時間軸とも重なる。習近平が見据えているのは、トランプとのディールそのものではない。その先にある、米国を乗り越えた世界秩序なのである。

 もっとも、この分析はあくまで中国側の自己認識に基づく戦略設計でしかない。現実の国力の推移について言えば、近年の中国経済が深刻な不況に陥っている実態、人口オーナス期に入った人口動態、対外融資の弱含みの流れなどから、私自身は中国の国力がすでにピークアウトしていると分析しており、習近平の長期戦略が功を奏すると考えているわけではないことを断っておきたい。