重要なのは、中国自身がどのような戦略的思考で国家運営や外交を展開しているかを理解することである。習近平の二重戦略は、毛沢東の「七二一指針」や鄧小平の「韜光養晦」と通底するものがある。中国の戦略文化は、つねに「時間」を軸に構築されているのである。この「戦略的闘争」と「戦術的安定」を見誤ると、米中関係、とりわけ中国の対米戦略への理解が混乱して読み違えてしまう恐れがある。しかし、中国の戦略に時間軸という“補助線”を一本引いてみれば、中国側の真の狙いが明解に把握できるようになる。

米国との衝突は避けながらも
なぜ周辺国には強硬なのか

 習近平外交は毛沢東以来の戦略論の系譜に連なる要素を色濃く残している。しかし同時に、近年の中国外交には、毛沢東の『矛盾論』や『統一戦線論』の正統的運用から逸脱していると見られる局面も増えている。

 現在、中国にとっての主要矛盾は米国である。本来、毛沢東の『矛盾論』に従えば、主要矛盾に集中するためには、副次矛盾との衝突を極力抑制し、これらを取り込もうとするのが戦略的合理性である。にもかかわらず、近年の中国は、日本、豪州、韓国、カナダ、さらには欧州諸国といった、本来は懐柔・中立化すべき対象(副次矛盾)に対して強硬な圧力を加え、摩擦を同時多発的に拡大させている。

 そこには、国力拡大に伴う自信と、対外的な譲歩を弱さと見なす政治論理が表れている。

 この外交姿勢は、しばしば「戦狼外交」と呼ばれる。その特徴は、主要矛盾への打撃面を最小化するという従来の戦略的合理性よりも、国内向けの示威や即時的効果を優先している点にある。ミサイル防御システム(THAAD)問題での韓国、コロナ原因究明を求める豪州、そして高市首相の存立危機事態発言後の日本などに対してみられた、中国による激しい経済的・文化的圧力はまさにその象徴である。

 その背景には、中国共産党の正統性の基盤が、鄧小平時代の「豊かさをもたらす政権」から、習近平時代の「強い中国を実現する政権」へと質的に変化したことがある。外交はその象徴的な表現の場となり、対外的な強硬姿勢が国内統合に利用される傾向が強まった。