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強権体制を敷く習近平氏にとって経済問題は最大の懸念となっている。その一方で、あらゆる権力が習氏に集中する構造や、台湾に対する軍事的圧力の行方も気になる。特集『総予測2026』の本稿では、2026年における中国政治の要諦を解説する。(神田外語大学教授 興梠一郎)
習氏の政権基盤は盤石
最大の懸念は経済問題
2025年10月半ば、中国軍の最高幹部ら9人の粛清が伝えられた。その中に習近平国家主席と極めて近い人物が含まれていたため、自分の子飼いを切らざるを得ないということは「習氏の立場が弱くなっているのではないか」という見方があるようだ。
しかしそれはまったく逆で、習氏の権力が非常に強いことを示している。
派閥間の綱引きで政治が行われている日本の常識で考えると、リーダーが自分の子飼いを粛清するとなると、それを深読みして「習氏の政権基盤になにか大きな変化が起きているのではないか」といった見方も出てきがちだが、中国におけるリーダーシップは、日本とはまったく違うという認識が必要だ。
自分の子飼いを平然と切るのは毛沢東にも見られたことである。中国語に「殺鶏給猴看(鶏を殺して猿に見せる)」、つまり見せしめという表現がある。旧ソ連や現在の北朝鮮と同様、派閥形成を防ぎ政権基盤の動揺を抑えるため、定期的な粛清は構造的に組み込まれている。定期的な「引き締め」を行わなければ統制が保てない。裏を返せば、部下の忠誠心を疑っており、常に離反の不安を感じているということでもある。
むしろ、習氏にすれば権力基盤への不安より、対米貿易戦争による経済的な問題こそが最大の懸念である。米国以外の国々との関係強化を通じて輸出先を確保しようという目的があるからこそ全方位外交を展開している。なにしろ対米輸出が3割近くも減っているわけだから、とにかく輸出先を確保しなければならない。
習氏政権の26年に向けた見通しや打ち手を知るには、国家統計局の統計や公式報道、特に共産党の会議での発表文を詳しく読むことが最も簡単で有効だ。
10月に開かれ、次の5カ年計画の方針を打ち出した中国共産党の重要会議、四中全会(中央委員会第4回全体会議)のコミュニケには、現在の中国が抱える課題が具体的に記されていた。
四中全会で示された中国が抱える課題とは何か。次ページでは、その具体的な内容を深掘りしていく。ただ、今の中国が抱える“真のリスク”は、それらとはまた別のところにあると筆者は指摘する。また台湾有事についても、中国にとって最もコストの低いシナリオを提示する。







