「人脈が大事」「まずは顔を売れ」――ビジネスパーソンなら一度は受けたことのあるアドバイスではないでしょうか。しかし、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、これを「異業種交流会の不毛」と一刀両断します。実は山口さん自身、20代の頃に「人脈づくり」に貴重な時間を注ぎ込み、手痛い失敗をした経験があるのだとか。なぜ人脈づくりへの直接投資は報われないのか。資本のメカニズムから解き明かしてもらいました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

仕事ができない人が共通で行く場所・ワースト1Photo: Adobe Stock

社会資本は「人的資本」からしか生まれない

――山口さんは『人生の経営戦略』の中で、人生は「時間資本」を「人的資本」「社会資本」「金融資本」に転換していくゲームだという話をされています。人脈や信用といった「社会資本」は、どうすれば築けるのでしょうか。

山口周氏(以下、山口):ここで押さえてほしいのは、社会資本を生み出すのは人的資本だということです。時間資本を直接投下しても社会資本の構築は進みません。

いわゆる異業種交流会は、まさに社会資本を形成するために行われるわけですが、社会資本は、人的資本に裏打ちされた高い水準のパフォーマンスやアウトプットによって初めて構築されます。「あの人に仕事を頼みたい」「あの人なら間違いがない」という評判や信用は、実力の裏付けなしには生まれないんです。

20代の私は「いいように踊らされていた」

――山口さんご自身も、苦い経験があるそうですね。

山口:苦笑してしまうような思い出があります。20代の後半、まだ「世界ゲームの原理」がクリアに見えていなかった頃のことです。

仕事はそれなりにこなしていたものの、「自分の人生を生きている」という手応えが希薄で、「こんなことをやっていていいのか」という猜疑に苛まれていました。そんな中、諸先輩方の「人脈が大事」という言葉にいいように踊らされて、随分な数の異業種交流会に参加していたんです。

いま振り返れば、「いきなりスカウトされて要職に抜擢」みたいなことをどこかで夢見ていたのでしょうね。でも、当然ながら、何の人的資本の裏打ちもない私にそんなことが起きるわけがない。最終的には「夢みたいなことを考えていないで、とにかく一歩一歩進むしかない」という当たり前のことを再認識させられました。

人的資本は「外側から見えない」

――金融資本のほうはどうでしょうか。スキルを磨けば収入が上がると考える人は多いと思うのですが……

山口:金融資本を生み出すのは信用・評判・ネットワークといった社会資本であって、人的資本は間接的にしか影響しません。「そんなバカな」と思うかもしれませんが、よく考えてみてください。労働市場で取引の相手側にいる雇用者の意思決定を左右しているのは、評判や信用といった社会資本です。理由は単純で、人的資本は外側から見えないからです。

彼らが使っているのは、学歴や職歴や賞罰といった情報、つまり「人的資本を代理的に表明する記号」であって、人的資本そのものではありません。私たちの購買行動と同じです。見たことも聞いたこともないメーカーの製品は、いくら「ちゃんとつくられています」と説明されてもなかなか買えませんよね。

金融資本を生み出すのは信用・評判・知名度などの社会資本であって、知識・能力・コンピテンシーなどの人的資本ではない――これはキャリアを考えるうえで非常に重要なのに、多くの人が誤解している点なのです。